紫陽花の咲く頃
      片岡&成瀬


        第七話




その後もその近くの温泉を二軒まわって、旅館に戻ると、三上と優は浴衣に着替えてまったりしていた。
「あれ?浴衣に着替えたのか?」
何もわかってない成瀬が、そういいながら優の世話を焼いているのを片岡は黙って見ていた。
「長いフロでしたね〜。よかったですか?」
三上が、からかうように声をかけてきた。
「きみたちだってよかっただろ?」
恋人同士がふたりっきりで、しかも浴衣に着替えてるとくれば、やることは決まっている。
自分たちだって最後まではいかなかったものの、似たようなことをやってきたのだ。
三上の表情が揺れたのを見てとった片岡は、何だかほほえましく思えた。
ちょうど夕食の準備があるようなので、旅館内の土産物店へと足を運ぶことにした。





成瀬と優が、まるで兄弟のように仲良く土産を物色しているのを見ながら、片岡がロビーのソファに腰を下ろすと、三上も同様に身を沈めた。
「もう長いんですか?」
三上が先に口を開いた。片岡が二年の付き合いだと答えると、えらく驚いたようだった。
「きみたちは、まだ浅いらしいな」
片岡に悪気はなかったのだが、三上は怒ったように、付き合いの長さなんて関係ないと反論してきた。
なかなかプライドの高いオトコのようだ…
ストレートな反応に好感が持てた。
最初、かなりガードを固くしていた三上も、片岡が成瀬から聞き及んでいた三上自身のことや、成瀬に対する想いを正直に話すと、だんだん打ち解けて話すようになった。
三上と成瀬、お互いに一生付き合っていける友人であることは間違いなさそうだ。
それだけでも、片岡にとっては収穫だった。
それに、この三上というオトコ、自分と似ていると、片岡は感じていた。
「三上くん、成瀬とはこれからも仲良くしてやってくれ。あいつは、きみと優くんが恋人同士だなんてこれっぽっちも気づいてないけれど、これから先の付き合いの中で、いつかはわかる日がくるだろう。あいつは弱音を他人に見せるのをとことん嫌うヤツだ。特におれに対してはね」
今まで誰にも話さなかった感情を、片岡は三上に訴えた。
この心内を理解できるのは、成瀬の友人で、同じく同性同士の恋愛を経験する三上しかいないと思ったから。
三上は黙って聞いていた。
「もしあいつがきみを頼ったときは、どうか力になってやってくれないか?」
片岡は、三上の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「さっきも言ったけど、おれは成瀬とは一生の友人だと思ってますから…」
三上の答えに、片岡は安堵の笑みを浮かべた。
「この旅行にきみたちが来てくれてほんとうによかったよ」
眼鏡の奥の、優しい瞳に、三上はこの人に愛されて成瀬は幸せなのだろうと心から思った。
その後、たわいのない話をしていると、成瀬と優が戻ってきた。
「先輩、友樹へのお土産、一緒に選んでくれませんか?」
優のお願いに、三上は柔らかく微笑むと、再び店へと歩いていった。
は〜っと溜息をついて、成瀬がどかりとソファに腰を落とした。
「優くんてさぁ、ほんっとに三上のこと信頼してるよなぁ。おれが選んでやるって言っても譲らないんだ、三上と選びたいんだってさ〜」
面白くないと言わんばかりに、ブツブツ文句を言っている。
やはり全く気づいていない様子の成瀬の鈍感さには驚くが、それが無邪気すぎてかわいいのも事実だ。
「何買ってきたんだ?」
白い袋を三つも抱えている成瀬に、片岡は問いかけた。
「弟の土産。優くんに選んでもらったんだ。それと饅頭だろ?バイト先とかいろいろ。それにこれ!」
ボトルを三本取り出した。
「よもぎシャンプーとリンスとボディソープだって。あんたと一緒に使おうと思ってさ」
「おれと同じにおいになりたいか」
鼻で笑いながら片岡がつっこむと、成瀬は口をとがらせた。
「あんたはそういう発想しかできないのかよ!」
きつい口調ながらも、そこには和やかな空気が流れていた。

 





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