紫陽花の咲く頃
      片岡&成瀬


        第ニ話




出発の日、待ち合わせ場所にやってきたふたりは、片岡の想像以上だった。
自画自賛ではないが、片岡自身もルックスには自信があったし、成瀬だって惚れた欲目を覗いても、かなりのかっこよさである。

しかし、現れたふたりには、それ以上のものがあった。
人間なのだから輝いているという表現はおかしいかもしれないが……
とにかくきらきらした何かがふたりを包んでいて、オーラみたいなものを感じるのだ。

長身に均整のとれたボディ、少し長めの黒髪にピアス、きりりと結んだくちびるにあまり表情の出ないクールな雰囲気。
難しそうな、扱いにくそうなオトコのようだが、成瀬が仲良くするのもなんとなく理解できた。

「こいつが今回の旅行の発案者。おれの連れ」
成瀬の紹介で視線を合わすと、三上は不躾に値踏みするような目で片岡を見た。

「はじめまして。成瀬とは大学で仲良くしてもらってます」
「三上くんだったね。片岡です、よろしく。えっと、君は―――」
片岡は、三上の隣りに半分隠れるように寄り添う少年に視線を落とした。
三上とは対象的に、小さくて華奢で、ひとりにしておけない気持ちにさせる雰囲気を持っている。
しかしその大きな黒目がちの瞳には、意志の強さが宿っているように片岡には見えた。

「三上の高校の後輩で、麻野優です。
今回は、お誘いいただきありがとうございました」

片岡の思ったとおり、見た目よりかなりしっかりしているようで、物怖じしながらもしっかりした口調で頭を下げた。
「めっちゃカワイイじゃんか!これは三上が隠しておくのもわかるわ!」
成瀬がめったに見せないような人懐っこい笑顔を優に見せると、人見知りをする優も自然と笑顔になり、それはまるで穢れを知らない天使のような、柔らかな笑顔だった。
片岡が運転席に、成瀬が助手席に、ふたりが後部座席に乗り込んだ。
「なあ、途中でコンビニに寄ってお菓子買おうぜ!」
なぜかハイテンションの成瀬に、片岡の顔も緩む。
そういえば、いつも出かけるのはふたりっきりで、こういった旅行は初めてだ。
教師と生徒という立場から始まったこの恋愛は、この街に住んでいる限り公に出来ない。
卒業して二年も立つ生徒が、学校生活においてほんの少ししかかかわらなかった教師と一緒にいるところを誰かに見られただけで、変なウワサが立ちそうだ。
もちろん覚悟の上の恋愛ではあるけれど、秘密にできるのならそれに越したことはない。

成瀬と優は、趣味が合うのか気が合うのか、楽しそうに話をしている。
バックミラー越しに三上を見やると、あのクールな瞳が、蕩けそうになって優を見つめていた。




類友ってよく言ったもんだよな……



ふと、ミラー越しに目が合うと、三上が表情を硬くした。
どうも三上は自分と成瀬の関係に疑問をもっているようだと片岡は思っていた。
友人にしては歳が離れているし、成瀬は片岡を年上扱いしていない。
態度も言葉遣いも。訝しがるのは当たり前だろう。

休憩に立ち寄ったコンビニで、片岡が三上に話しかけると、案の定どういう関係か尋ねてきた。
適当にごまかしたが、三上はうすうす気づいているだろう。
それでもいいかと片岡は思った。
そのほうがお互い楽しい時間を過ごせそうだから……

 





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