紫陽花の咲く頃
      片岡&成瀬


        第一話




どうして六月は祝日がないんだ?
それは片岡の小さい頃からの疑問だった。
五月にあんなに休みはいらないから各月に分散させて欲しいものだと毎年思う。
おまけに六月はじめじめした梅雨の季節。
蒸し暑いし雨が続くし本当になにもいいことがない。
しかし、今年は違う。
買い物をした際に渡されたサービス券の抽選で、温泉旅行が当たったのだ。
詳細を聞くと、どうもモニター旅行らしく、旅行終了後には宿の感想など簡単なアンケートに答えなくてはならないらしい。
おまけに、四名参加が義務らしい。
少し面倒だが、タダにかわりはない。
今話題の黒川温泉、宿は『黒川荘』の離れと聞かされて、権利を放棄するのはもったいなすぎた。

それにしても、あと二名か…。
圭に声をかけようか、いや旅行中ずっと意地悪くされそうだ。
どうすべきか頭を悩ませていたが、片岡にはふと思い当たることがあった。

成瀬と付き合って二年。
大学二年となった成瀬は、高校時代よりも人付き合いがうまくなったが、それでも家に友人たるものを連れてきたことがない。
片岡も成瀬の友人らしき人物に会ったことがなかった。
そんな成瀬から唯一語られる大学の友人が三上という人物だった。

それは、成瀬の口から頻繁に発せられる名前だ。
成瀬の三上情報によると、かなりルックスがいいらしく、モテるのに彼女をつくらないらしい。
音楽をやっていて、駅前の路上で金曜日に歌っているらしい。
そして、その音楽はなかなか心を打つらしい。
高校時代からこの地では有名らしい。
大学での成績もいいらしい。

そんな風に、自分のことのようにうれしそうに話す成瀬を見ていると、会ったこともない三上に嫉妬の炎を燃やしそうだった。
そんな三上情報でひとつ気になったことが片岡にはあった。
それは、三上が赤の他人のオトコと同居しているということ。
まだ高校生だという同居人がとんでもなくカワイイということだった。

果たして、類は友を呼ぶのだろうか?片岡は成瀬に旅行の件を話した。












「温泉?行くに決まってんじゃん!あんた、初めてじゃねえの?こんなの当たったの!」
成瀬はからかいながらもうれしそうに片岡を見た。
成瀬は結構懸賞たるものに強く、抽選会でもティッシュひとつなんてことは滅多にない。
逆に片岡は年賀状の切手シートさえも当たらないくらいなのだ。

「おれもヤルときゃヤルんだ。
で、相談なんだけど、それ四名でないと使えないらしい。
だからおまえダチ引っ張ってこい」

片岡は、モニター旅行という事実は伏せておいた。
「そんな規定あんの?おかしくない?
でもちゃんとJTBて書いてあるよな〜あとふたりか…」

「オトコふたりにしろよ。それとそいつら同士も仲いいやつにしろよ」
「なんでだよ」
成瀬というやつは、命令されると絶対に素直に聞き入れない。
まあそこがかわいいところだと片岡も認めているのだけれど。
「だって、そうでないと、二・二で行動できないだろ?
まあおまえがおれとふたりになりたくないのなら、おれは誰だっていいんだけど」

片岡のしれっとした口調に、成瀬は考え込んで、口を開いた。
「わかった。いいヤツがいるから、誘っとくよ。そのかわり、クルマは出してくれるよな?」

片岡は黙って頷いた。

 





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