恋するキモチ


<5>


「兄ちゃんお帰り〜」
「おせーぞ、亮にい」おれは、テーブルに弁当屋の袋を置いて、片岡からの袋を冷蔵庫にしまった。
「康介、悪いけど皿に盛ってやって?母さんは?」
「病院から呼び出し。さっき出てった」
「そっか・・・おれ、今日はもう寝るから」
「ゴハンは?」
「いらね〜戸締りだけ頼む」
おれは部屋へと引きこもった。
部屋着に着替え、ベッドに倒れこむと、大きく伸びをする。
薄いカーテンがやわらかな夜の明るさを部屋に注ぎ込み、いつもはうるさい弟たちも食ってる時だけは静かだから、おれの鼓動だけがやけに大きく聞こえる。
目を閉じると、どんどん大きくなり、おれの視界全体を覆った片岡の顔が浮かんで・・・消えない!
しかも、く、くちびるの感触がっ・・・消えない!
おれ、おれ・・・初チューだったんだぞ!
うつぶせになって、顔を枕に埋めた。
初チューがオトコかよ・・・・・・
おれは、見かけはこんなだけど、初チューはおろか、オンナと付き合ったことさえない。
そんなヒマもなかったし、遠くからきゃあきゃあ言われはするが、告白されたこともないのだ。
二ノ宮いわく、どうも冷たそうで愛想が悪そうに見えるらしい。
よく言えば、ニヒルでかっこいいってことか?
オンナに愛想を振りまくほうじゃないし、顔だってどっちかと言えばキツイ顔立ちだ。
二ノ宮はまるで逆で、甘い系の顔立ちで、オンナによく話しかけられている。フェミニストってやつだ。
おれだってその気になれば、オンナのひとりやふたり、いや、数え切れないくらいのオンナを落とす自信はあるんだ。
だけど、今まで、そんな気になったことはなかった。
それなりに17歳らしく性欲だってあるけれど、自分でヌイときゃ満足だった。

ま、まさか・・・おれ・・・ホモなんじゃ・・・・・・?
今度は仰向けに体勢を変えた。
片岡がふれた頬、片岡がふれたくちびるの感触が、おれの身体を熱くする。
あいつのくちびる・・・柔らかくて・・・煙草と甘いコロンの香りがしたな・・・・・・
ほんの一瞬の出来事だったけど、ほんとにふれただけだったけど、ちゅって小さな音をたててくちびるが離れた時、なぜが名残惜しい気がしたっけ。
そして、あいつの何ともいえないうれしそうな顔に、すげーグッときて・・・
ほけーっといろいろ思い出してしまう。もう頭のなか、片岡のことでいっぱいだ。
おまけに、全然嫌じゃなかったんだよな・・・びっくりしただけで・・・・・・
もともとあいつのことは嫌いじゃなかった。かっこいいとは思ってたし、ずっと世話になってたし、みんなが羨むあいつが、結構おれのことかまってくれるのはうれしかった。
ただ、当たり前だけど、恋愛対象としては見たことがなかったし、どこの誰があいつに言い寄っても気にならなかった。
あいつは、おまえなんかにぜってー落ちねえよって、心の中で笑ってた。
なぜ、そんな自信めいたものがあったのか、よくわかんねえけど。
だけど、おれ・・・マジでホモなんだろうか・・・?
考えては、否定の材料を探そうとする自分がいる。
いやいや、おれひとりでヌクときのオカズはオンナだもんなっ。ホモじゃねえ!
だけど、おれ・・・オトコに頬なでられたり、キスされたりして、ドキドキしてるし・・・?
いやいや、今までオトコにときめいたことなんてないし、二ノ宮とキス・・・げっぜってーやだ!
―――待てよ?つうことは、おれ、片岡ならいいってことか・・・?
再び、もこもこと頭の中に片岡が・・・・・・
おれって・・・見事にあいつにハマッていってるような気がする・・・・・





back next novels top top