祈 り



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ギターと、懐中電灯と、優からの手紙を持って、おれは優の眠る場所に立っている。
外灯のひとつもないこの場所は、暗闇に包まれている。しかし、運のいいことに、今日は満月だった。月明かりが、ほんのりおれと優を照らしてくれる。
おれは、腰を下ろし、照らされた優の眠る場所にそっとふれた。







優、ごめんよ・・・・・おれは優のこと、何にもわかってなかった・・・・・・
つらい思いばっかりさせたね・・・・・
優、今考えても、おれは優の笑顔しか思い出せないんだ。
いつもおれには笑顔をくれたね。
わかってる?優がおれに泣いてすがったのはたったの二回だけなんだ。
病院で、おれが優に告白したとき。





それと・・・最後の夜。
おれは、何にも知らなくて、さっき友樹から聞いて、やっと優の苦しみを知ったような、ほんとにとんでもないやつなんだ。
そんなおれのために、優は、つらい思いばっかりして、我慢して・・・・・








「優、どんな気持ちで、お台場でおれにさよならと笑顔で手を振った?」








「優、おれがおまえのオルゴールを捨てた時どう思った?」








「優、おれがおまえの気持ちを問い詰めた時、苦しかった?」








「優、最後にどんな想いでおれの名前を読んだ?」








「優、なぁ、教えてくれよ・・・・・優の気持ちを何にも理解していないおれの、理不尽な言動に腹がたったなら、おれに怒りをぶちまけてくれよ!おまえのせいで、ぼくはこんなに苦しかったんだって、優、おれを罵ってくれよ!」








いまさら、どんなに優を理解しようとも、もう二度と優はかえって来ない。
おれは優に、何もしてやれなかった。
優にたくさんの優しさと愛をもらっておきながら、それに気づかず、理解しようともせず、自分のことだけを考えて、自分が楽になりたいためだけに、優を責めて、挙句の果てには、優の痩せ細った身体に気づきながらも、優の体力を奪うだけの、優の命を縮めるだけの、欲望に任せた行為をしてしまった。抱くよりも、抱かれることのほうが、どんなに苦しく体力を消耗するのか、わかっていたくせに・・・・・・
おそらく、お台場で別れてから、最後に優と別れたあの日までの、おれの発したすべての言葉が、優を傷つけていたに違いない。








「どうすればいい?どうすれば許される?どうすれば償える?」








――――先輩、手紙読んでくれましたか?――――








手紙?そうだ、手紙・・・・・・
ポケットから手紙を取り出し、懐中電灯で照らしだされた、見慣れた文字を指でなぞる。
おそるおそる、封を開けた。










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