祈 り



<37>






重なるくちびるが柔らかい。絡み合う舌がとろけるように熱い。
久しぶりのキスに夢中になる。
飲みきれずあふれだした蜜が首筋まで伝う。
息が苦しくて、眉根を寄せたぼくに気づき、先輩がくちびるを離した。
「優、ごめん・・・久しぶりでつい・・・・・」
ぼくの脇に手をつき見下ろす先輩のその表情がかわいくて、先輩の首に手をまわし、ぐっと引き寄せ、軽くくちびるを重ねた。
ちゅっとかわいい音がする。
「大丈夫だから・・・先輩、謝らないで・・・・・・・・もっと・・・・・して・・・・?」
その言葉に、再び降りてくるくちびる。
何度も何度も角度を変えてはぼくを攻める先輩の熱。ぼくの熱も先輩を追う。
繰り返されるキスの合間にお互いの服を脱がしあう。
触れ合うくちびると絡まる舌の蕩けるような感覚に意識が集中して、羞恥心を感じない方法。
ぼくたちはいつだってそうしていた。
そしてやっと、先輩がぼくに身体を重ねた時だった。





「優、おまえ、なんかずいぶん痩せてないか?」





甘い雰囲気を切り裂くかのような、驚きが混じった硬い口調。
途端、現実に引き戻される。
事実、ぼくはかなり痩せ衰えていた。細身な方だったけれど、それ以上に痩せてしまっていた。なにぶん、食欲もなかったし、食べることに興味もなくなっていたから。
「そんなことないですよ。ぼくの身体のことは先輩がいちばん知ってるでしょ?」
先輩を見つめて笑みを浮かべる。
「それにしても・・・・・・」
ぼくの肩や腕にふれる。それだけで、身体が燃えるように熱くなる。
これ以上、そのことにふれられるのはたまらない。
今は考えたくない。
先のことなんて・・・・・・

「そんなこと、もういいでしょ?それより先輩・・・早く・・・・・・」
甘えた声で、身体を離した先輩を抱き寄せた。ぼくの上に重なる先輩。
たくさんのキスが降ってくる。このくちびるの感触をぼくの肌は覚えていて敏感に反応する。
そして、これが、ぼくが知る唯一のくちびるだ。
耳元に、先輩の吐息を聞き、耳朶を軽くかまれ、背中にまわした手に力が入る。
時折繰り返されるぼくの名を呼ぶ声に、耳が刺激される。
耳から、首筋、肩へとくちびるが降りてくると同時に、腰から脇をすぅーっとなでられる。
指を立て、ふれるかふれないかくらいの力加減でなで上げられ、全身が震えた。
「あっ・・・やっ・・・・・・」
その手が、胸の突起にふれた時、ぼくは思わず声をあげた。
「そうだったな。優は・・・・ココがすごく感じるんだった・・・・・」
執拗な愛撫が始まる。指で揉まれ、摘まれるたびに、ぼくの喘ぎ声が響く。
「・・・んっ・・やっ・・・・・おねが・・・・・・・」
「どうして?優、キモチいいんでしょ?」
さらに舌で転がされ、舐めあげられ、軽く噛まれ、ぼくのいやらしい声は大きくなる。
あまりの快感に、背中を反らせると、それは胸を突き出して、ねだっているような格好になった。
「せんぱ・・・・おねがい・・・・もう・・・・・や・・・・・・・」
「だめ、優、もっと聞かせて・・・・?優の声・・・・・」
「やっ・・恥ずかしい・・・・あっ・・・・・」
先輩の手がぼくの下半身を捉えた。
「恥ずかしいって、優、まだ胸しかさわってないのにこんなになってるよ・・・・・」
ぼく自身を刺激し始める。
胸を舌で刺激され、下半身を手で扱かれ、ぼくはもう限界にきていた。
「やっ・・・も・・・・・だめ・・・・は・・・・なし・・・・・・て・・・・・」
「いいよ、先にイッて」
そう言って、さらに刺激を強める先輩の手の中に、ぼくは精を解放した。
久しぶりの先輩の愛撫にあっけなくイッてしまったぼくの目には、恥ずかしくて涙が滲んでいた。
「優、かわいい」
肩で息をするぼくに、啄むようなキスを何回も落とす。
おでこに、頬に、くちびるに・・・・・・
「優、キモチよかった?感じた?」
そう聞くのも、先輩のくせ。
えっちのとき、先輩はいつだって、自分の欲を後回しにして、先にぼくをキモチよくさせてくれる。
優しく丁寧に・・・時には意地悪だけれど・・・・・・
「はい・・・・・なんか久しぶりで・・・・・おかしくなりそう・・・・でした・・・・・」
あの頃のぼくは素直だった。先輩に何ひとつ隠し事はなかったし、嘘もなかった。
ぼくのすべてを先輩に知ってほしかった。
先輩に感じているぼくを知ってほしかった
「じゃあ、今度はおれの番・・・・・いい?」
「ぼくも・・・・先輩がほしい・・・・・」
ぼくの白濁を受け止めた手を、そっと後ろにまわす。
「や・・・・・う・・・・・・」
違和感に声がもれる。もう何年も、排泄器官としてだけ機能していた場所に侵入する指。
「痛い?」
どこまでも優しい先輩。ぼくのことをいちばんに考える先輩。
「大丈夫・・・・・・」
顔をしかめ、痛みを噛み殺すくちびるに、キスが落とされる。
意識が深い深いキスに集まり、下半身を考える余裕がなくなる。
そうしていつもぼくの気を紛らわせてくれる。
舌の追いかけっこに夢中になる。
「あっ・・あっ・・・・や・・・そこ・・・・・や・・・・・」
ぼくに飲み込まれた指が、あるポイントを擦ったとき、あられもない声が口から洩れた。
何年も触れていないのに、その感覚をそこはしっかり覚えていた。
そのことが嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、先輩にギュッとしがみつく。
「やじゃない・・・・感じる?」
中で指を曲げられ、何度も突かれるたびに、恥ずかしい声が部屋に響く。
同時に、ぼくの前も勢いを増し、勃ちあがる。
ぼくの中のその部分は、とんでもなくキモチいい。胸も敏感なぼくだけれど、そのポイントは言いようがないほど、ぼくを乱れさせる。
「やっ・・・もうっ・・・・だめ・・・・イ・・ク・・・・・」
「じゃあ、一緒にいこう、優・・・・もう少し我慢して・・・・・」
先輩はぼくの膝の裏に腕を差し入れ、両足をぼくの胸につくくらい曲げさせた。
ぼくのすべてが露わになる。恥ずかしくて顔をそむける。
「優、痛かったらすぐに言って・・・・・」
先輩を受け入れるために、十分に蕩かされ、濡らされたぼくの中に、先輩が入ってくる。
「うっ・・・・・・」
指とは違う太さの異物に、身体に力が入る。
「優、力抜いて・・・・・大きく息して・・・・・そう・・・・・」
ふっと力を抜いたと同時に、先輩の腰が進み、ぼくは先輩を飲み込んだ。
ぼくの身体の中に先輩を感じる。
今、ぼくと先輩は繋がっている・・・・・・ひとつになっている・・・・・・・
ぼくはこの満足感が欲しくて、えっちをする。
もちろん、キモチいいからでもあるんだけど、それよりも大切な何かがこの行為にはある。
オトコ同士で愛し合うなんて、ひとつになるなんて、信じられなかったぼくに、先輩は教えてくれた。
この満たされた心を・・・・・・幸福感を・・・・・・
先輩としか味わえない・・・・・先輩としかひとつになりたくない・・・・・
ぼくには先輩だけ・・・・・・
「動くよ、優」
先輩がリズムを刻む。ぼくもそれに合わせる。
今度はふたりでキモチよくなる。
ぼくが空中に両腕を差し出すと、先輩がぼくの身体の上に重なり、背中に手をまわす。
ぼくも先輩の背中をぎゅっと抱きしめる。
「あっ、あっ・・・あっ・・・」
絡み合った身体が叩き出すリズムと輪唱するかのように、ぼくが発する喘ぎ声。
「優・・イイ・・すごくイイよ・・・」
ぼくの耳元では、先輩の甘い吐息と甘い声。
微かに煙草のにおいが染みついた先輩の身体。
さらに激しくなる律動に、同時にぼくを刺激する先輩の手の動きに、お互いが背中にまわした腕に力がこもる。
ぼくは繰りかえし囁く。
「すきっ、せんぱ・・・・だ・・・いす・・・き・・・・・す・・き・・・・・」
「うっ」という先輩の小さな声を合図に、ぼくたちは一緒に昇りつめた。










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