祈 り



<3>






「昨日なんで途中で帰ったんだよ」
いつもの待ち合わせ場所で顔を合わすや否や、友樹が口をとがらせてぼくを責めた。
「ちょっと熱気にあてられてさ・・・友樹、ライブに夢中だったし、まだ時間も早かったし・・・・・・ごめん」
ぼくは素直にあやまった。友樹は一瞬訝しげな表情を見せたが、それ以上何も言わなかった。








それから、友樹はぼくが帰った後のライブ報告を、学校に着くまで話し続けた。
話によると、ライブ終了後、友樹は告白された先輩につかまり、なかなか帰してもらえなかったらしい。
優がいたら、帰る口実になったのになぁと、ぶつぶつつぶやいていた。

友樹はその先輩と付き合う気はいまのところないようだ。それにしても積極的な先輩に感心する。
一方的に話す友樹にぼくは相槌ちを繰り返していたけれど、半分うわのそらで、三上先輩のことを考えていた。
「そうだ、優。三上先輩がさ〜、優のこと探してたよ?」
「えっ?」
「おれが、中原先輩・・・おれのことが好きとかいう先輩にとっつかまってるときに、急に声かけてきてさぁ、麻野はどうしたって。だから途中で帰ったみたいだって返事したら、ちょっと残念そうだったぜ、先輩。それになんで優のこと知ってるわけ?」
ぼくの顔を覗き込む。
「しっ知らないよそんなの!」
ぼくはぷいっとそっぽを向いた。
ふ〜んと意味深な相槌ちをうつ友樹。絶対おかしいと思ってる。
それにぼくは嘘をつくのが下手だ。
だけど、ケータイのことを話したら、なぜ公園でケータイを落としたのか、すべてのいきさつを話さなきゃならなくなる。
そうなったらぼくは嘘を突き通すことは出来ない。
先輩の涙を見たことも隠しておけなくなるに決まってる。
だったら、ここで知らないふりをするのが一番。

ぼくは押し黙っていた。
友樹はちくちくと責めたててくる。
「だけどさ〜ライブ中、なんか三上先輩、優のこと見てなかった?」
どきっとしたけれど、ガマンガマン。口を開いたら負けだ。
「もしかしてさ〜先輩、優のこと好きだったりして!」
「なっなっ・・・」
ぼくはたまらず友樹を見上げた。いたずらっぽく笑う友樹。
明らかにぼくの反応で楽しんでいる!

これ以上一緒にいるとどうにかなりそうで、ぼくは教室に向かって駆け出した。








息を切らして席に着く。とにかく冷静に冷静に。
友樹ってば何考えてるんだろう。
先輩がぼくのことを好きだなんて・・・・

走ってきたための動悸とは違うドキドキ感で胸がいっぱいになる。
友樹の言葉だけが頭をぐるぐる回る。





―――優のこと好きだったりして・・・・優のこと・・・・―――





あ〜っ!ぼくは机に突っ伏した。
「おい、優っ!」
頭の上で友樹の声。
だけど、ぼくは机から顔を上げなかった。まだからかう気なんだ。

「三上先輩が、昼休みに屋上に来てくれってさ!」
がばっと起き上がるぼく。
「マッマジで?」
びっくり顔のぼくに、にやりと笑みを浮かべて友樹は言った。
「マジでまんざらでもないかもよ、優」









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