祈 り



<26>






交代でバスルームを使用し、リビングのソファに並んですわった。
昼間に買ったワインとチーズとチョコを開ける。
またチーズだよ、と大笑いした。
でもワインにチーズはかかせない。
「優、ここんところおれを避けてたろ」
その一言で、すっかり忘れていた不安が甦ってきた。
そうだった・・・・・・
表情を曇らせたぼくを見てとった先輩も同じような表情。
「おれ、優に嫌われるようなことしたかな?してたら教えてくれ。気をつけるから」
まただ・・・・・
こんなとき、いつも先輩が先に謝るんだ。
そして、いつだって原因はぼくにあって先輩にない。
恥ずかしいけど・・・・・・嫌われるのはぼくのほうかも知れないけど・・・・・・ぼくは先輩には正直でいたい。
それに、さっきテラスで、たくさんのキスをくれた先輩の心を信じたい。
「―――先輩が、あの日以来、一度もあのっ・・えっと・・・えっちしないから・・・・・・・」
「えっ?なに?」
本当に聞こえなかったようで、さらに不安げな顔をぼくに見せる。
そんな先輩を見たくなくて、今度ははっきりと言った。
「先輩が、あれ以来、ぼくとえっちしようとしないから・・・・キスはいっぱいくれるし、抱きしめてもくれるけど、えっちはなくて・・・・やっぱり気持ち悪かったのかな?オトコなんて嫌だったのかなって」
上目遣いに見ると、一瞬目が点になったような先輩は、突然笑い出した。
「なっなんで笑うんですかっ!ぼ・・・ぼくは真剣に悩んでっ!」
ぼくの勇気を出した告白を大笑いする先輩に、口をとがらせた。
先輩はぼくの頭をぐっと自分の胸に抱き寄せた。
「ごめん、優、笑ったりして。優・・・・優はおれに抱かれたかった?えっちしたかった?」
ぼくの髪に指を絡めながら甘くささやく。
「ぼくは、先輩のそばにいられるだけでとてもうれしかった。それだけじゃなく、キスもたくさんもらったし、一緒に眠ってくれた。先輩の胸はとても温かくて安心でした。それで満足なはずなのに・・・何か物足りなく感じるんです。満たされない自分がいるんです。あのときのようにもっともっと深く先輩を感じたい・・・・・身体中で先輩を感じたい・・・・・・」
ぼくは先輩に手を合わせた。
すぐに絡まりあう指。
「あの夜のことを思い出すと、身体の奥が熱くなって・・・・ぼくおかしくなるんです!・・・・先輩にさわって欲しいって・・・・・・変でしょ?そんな自分が汚くていやで!」
「変じゃないよ・・・・全然変じゃないよ。逆にうれしい。優、おれに欲情してたんだ」
ヨクジョウ?
ぼくの頭に『浴場』という文字が浮かんだ。
おふろ???
「おれも優のこと抱きたかった。毎日だってえっちしたかったよ」
えっ?そうなの?じゃあなんで?
「おまえ、友樹に話したろ」
友樹?なんで友樹がでてくるの?
「―――少し話しました」
「あいつ、何でもズケズケ言うじゃん?で、先輩は毎日ヤリまくりたいかも知れないけど、優の身体のこと考えてくださいよ、あいつ、細いんだから、学校もあるんだし、て言われたの。そう言われりゃその通り。オトコの穴はもともと排泄器官だし、オンナのように、オトコを受け入れるためのもんじゃない。それにあの最初の日も、だいぶ無理させた。次の日一日ダウンしてたしさ。それで、我慢してたんだ。したら優もどんどんおれのこと避けてる風で。おれ、優のことになると、からっきし弱くなっちゃんだよな〜」
「それはっ」
「それは?」
「ぼくのこと、求めてこない先輩のそばにいるのがつらくなって・・・・だって、一緒にいると、どうにかなってしまいそうだったんです。そんな浅ましいぼくの気持ちに気づかれるのも嫌だったから・・・・・」
「それ聞いてほっとした。よかった、マジ。おれ優に嫌われたら生きていけね〜」
「先輩、嫌じゃない?ぼくみたいなオトコとするの、ほんとに気持ち悪くない?」
「優!それ以上言うと怒るよ?」
「だって・・・・先輩の周りにはきれいな女の人もいっぱいいるし、ぼくじゃなくても」
「ゆ・う!」
「―――じゃあ、一緒にいてもいい?ぼくでいい?」
「おれは優がいいんだ。優じゃなきゃ嫌なんだ。だから・・・・・・これからもずっと一緒だ」
先輩はグラスをとり、ワインを口に含むと、そのままぼくにくちづけた。
先輩の舌とともに、ぼくに移されるワイン。
口内で熱を帯び、少し暖かい。
初めての経験に、ぼくがたまらず口元からもらしたワインをぺろっとなめとった。
なんかえっちっぽい・・・・・・
「誓いのワインでしたっ。どんな感じ?」
そんな・・・・感想を求めないでよ・・・・・
黙り込むぼくに「じゃあこれは?」と今度はチョコレートを口に含みくちづけする。
固体であるため難なくぼくの口内に移される。
ぼくが味わおうとしたその時、巧みに先輩の舌がチョコをさらっていく。
そして再び返される。ふたりの口内を行き来するチョコ。
その熱に溶かされて、どんどん形をかえていくチョコ。
甘さが口いっぱいに広がる。溶けてなくなってやっとくちびるが離れた。
なんかめちゃくちゃえっちだ・・・・・・先輩・・・・・・
ぼくはもうめろめろになっている。
「あっそうだ」
ぼくから離れてカバンをごそごそ探りだす。
戻ってくると、「目を閉じて、優」と今度はソファにすわったぼくの正面に膝をつく。言われたとおり目を閉じた。
ぼくの肩に先輩の腕がまわされる。
これってまさか・・・・・
「いいよ、目開けて」
胸元を見ると、やっぱり!
クリスマスに先輩からもらったクロス。
あの雪の日に、花束の中に落とし入れたクロス。
もうあきらめていたのに・・・・・・
「それ、花の中から出てきたんだ。優、何も言わなかったし、どうしようか、ずっと考えてた。でもやっぱり、それは優に身につけていて欲しい。おれも優にもらったの、肌身離さずつけてるし」
ほら、とシャツから出して見せてくれた。うれしい!
「失くしたと思ってたんです。神様がぼくの代わりにお連れになったんだって・・・・・・」
ぼくはクロスをぎゅっと握りしめた。
「優、冗談でももうそんなことは言うな。優はこれからずっとおれと生きていくんだろ?」
返事の変わりに、先輩の肩に腕をまわした。
「―――優・・・・今夜は・・・・優をおれのものにしたい・・・・・」
甘い声でささやかれ、ぼくはたまらなくなる。
先輩を感じたい・・・・・・

「・・・ぼくも・・・・先輩と・・・えっちしたい・・・・」
ぼくの返事に、先輩はにこっと笑い、軽くくちびるをあわせると、ぼくを二階へ誘った。





 

こんな素敵な旅行は初めてです。
幸せすぎて恐いくらいです。
あなたがお持ちになったと思っていたクロス
ぼくのもとに戻ってきました。
ぼくを守ってくださいますか?










back next novels top top