祈 り



<24>






あれから、キスを交わすのは当たり前になった。 
だけど――――いわゆるえっちは一度もない。
先輩がぼくを求めてこない。
なのに、ぼくは・・・・・先輩が懐かしくてたまらない。
夜、ひとりでベッドに入っても、あの夜の満たされた気持ちが欲しくてなかなか眠れない。
そんな時、ぼくは先輩のベッドに転がりこむ。
先輩はそんなぼくの髪を、眠るまで優しく梳いていてくれる。
先輩にぎゅっとしがみついて、先輩のにおいやぬくもりにつつまれて、ぼくはやっと眠ることができる。
だけど、何か満たされない。
そばにいることができて、キスをもらって、抱きしめられて、十分はなずなのに、ぼくの心と身体は満足できないでいる。
約束通り、友樹に初えっちについて、ぼくの言える範囲内で話して聞かせた。
友樹は「すげ〜優、幸せじゃん」と祝福してくれ、「これから大変だぜ、優。先輩、タフそうだし!ヤりすぎて身体壊すなよなっ」ってよけいな心配までしてくれた。
いくらぼんやり型のぼくだって、今くらいの年齢がいちばんお盛んだってことくらい知ってる。
ぼくはいたって淡白なほうなんだけど、友樹が言うとおり、先輩はぼくの欲目を入れたって、フェロモン大放出って感じで、かっこよくって色っぽい。
だから、ぼくはぼくなりに覚悟してたんだ。
それに、えっちがすべてではないけれど、ぼくは先輩を見てるとたまらなくなるんだ。





ぼく、どうしちゃったんだ?
こんなにそばにいるのに・・・どうして心が満たされないの?
それとも満たされてないのは・・・・ぼくの身体?
ぼくの身体が先輩を求めてるの?





身体中に落とされたキスの雨・・・・ぼくを優しく愛撫する先輩の指・・・・・
そして・・・・・・・





思い出すたび、身体の芯が熱を帯び、どうにかなりそうになる。
そして、そんなことばかり考えている自分がたまらなく嫌で、汚く思えてくる。
どんなにそばにいても、抱き合って眠っても、ぼくを求めない先輩。
もしかして、やっぱり嫌になっちゃったのかな?
ぼくばかりキモチよくって、何がなんだかわからなくて、ぼくのおかしくなってる顔とか、恥ずかしい声とかいっぱい聞かされて、ぼく何にもできなくて、もういいやって思ってるのかな?





―――これからはふたりでキモチよくなろうな―――





先輩は、その言葉、後悔してたりするのかな?
そしてやっぱりオトコなんて嫌なのかも・・・・・・





だいたい、先輩がぼくのことを好きだと言ってくれたこと自体が奇跡のようなものなのだ。
好き好んで、ぼくなんか、しかも同性を選ばなくても、先輩にはもっともっと素敵な人が周りにたくさんいるんだもんな・・・・・・








「なぁ優、ハウステンボス行ったことあるか?」
春の足音が聞こえてきそうなある日の夕食後、先輩が突然切り出した。
最近ぼくは、先輩に近づくことも恐くなっていた。
だって、先輩の体温を感じるだけで、どうにかなりそうで恐い。
夜、眠れなくても先輩を訪れるのをやめた。
キスでさえ避けるために、勉強が忙しいからともっともらしい理由をとりつくろい、自室で過ごすことが多くなっていた。
ハウステンボス―――地元のくせに行ったことないなぁ・・・・・・
「ないです。一度家族で行く予定があったんですけど、流れてしまって・・・・・・」
「じゃあ、来週の土日、小旅行決定だ。バイト入れるなよな」
「えっ待って、そんな急にっ」
「ダ〜メ!友樹にもチェック済み。何の約束もしてないだろ?来週末、優くんはおれとで・え・と!」
絶対約束だかんな、言い残してバイトに出かけていった。
ど、どうしよう。今の状態で、先輩と一緒に過ごすなんて!しっしかも泊まりだなんて!
悩んでいる間にも時は過ぎ、あっという間にその日がやってきた。










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