star festival





<3>






肩を抱き寄せると、自然に身体を預けてくる。
その重みを感じ、おれは安心した。

ぬくもりがおれの心を落ち着かせていく。
それと同時に、全く思い浮かばなかった優への想いがどんどん湧いてくる。
ほとんどが、謝罪の言葉ばかりだった。






優のこと、わかってやれなくてごめん。
優のこと、苦しめてばかりでごめん。
優のこと、放りだしてしまってごめん。





あんなに、優に言いたかった言葉なのに、おれは口にすることができない。
優が悲しそうな顔をする気がして・・・・・・
優は幸せだったと言ってくれた。
こんなおれでも、愛されて幸せだったと。
その言葉に偽りはないと思う。
優は人のことを思いやるとても優しいコだったけれど、そんな見え透いたウソはつかないはずだ。
優がそう思っていてくれているなら、おれのそんな謝罪の言葉を喜ぶとは思わない。
優の最期を見届けることが出来なかったおれの自己満足としか言いようがない謝罪を、優は受け入れないだろう。





だから優は言ったのだ。
『何も言わないでください』と。





おれに会いにきてくれた優におれがしてやれることは、謝ることではない。
おれのありったけの愛を、感じさせてやることだ。
「雨が上がってよかったですね。きっと天の川にも橋がかかって、いまごろ一年に一度の逢瀬を楽しんでいるでしょうね」
「そうだな。きっと積もる話をしてる・・・いや、恋人同士に言葉なんていらないよな?」
そう、恋人同士に言葉なんていらない。
お互いのぬくもりを感じれればいい。
それほど近くにいられること自体が、幸せなことなのだから。

優が頭をおれの肩に凭せかけるから、しっかり離れないように抱き寄せた。
おれが優のぬくもりを愛しいと感じるように、優もおれのぬくもりを愛しいと感じてくれればいい。
「何か歌ってやろうか?」
「ほんとに?」
優はうれしそうにおれを見上げた。
「何でもいいよ?リクエストは?」
「校歌!」
「校歌〜?」
「何でもいいって言ったじゃないですか〜」
拗ねるような口調でさえ、懐かしくて微笑ましい。
その後も、童謡からおれの曲までリクエストを繰り返す優のために、おれは歌い続けた。
ギターの代わりに優を抱きしめながら。
「夜が明けなければいいのにね」
淋しそうに囁いた優の声が・・・切なかった。







**********







「先輩、そろそろ帰らなくちゃ」
空が白み始めた頃、優は搾り出すような、それでもしっかりした声でそう言った。
離れようとする優をきつく抱きしめて離さない。
「行くなよ・・・ずっとここにいろよ・・・」
おれのほうが動揺して、震える声を抑えることができなかった。
「先輩・・・また会えるから・・・きっと会える・・・だから―――」
「イヤだ!行くな・・・優・・・行かないでくれよ・・・」
そんなわがままを言ったことは一度もない。
いつだって離れたくなくて、できるならずっと一緒にいたくて、一分一秒だって離れていたくなんてなかったのに。
いつも大人ぶっていたから、おれは優にそんなことを言わなかった。
お台場の時も、ニューヨークの時も、カナダの時も・・・
物分りのい男を装って、自分の本心をさらけ出すことができなかった。
でも、今のおれにそんな馬鹿馬鹿しいプライドはこれっぽっちもない。
ただの駄々っ子のように、イヤだ、行くな、と繰り返した。

何かに引き寄せられるように立ち上がり、おれから離れようとしたとき、つい手が出て服を引っ張ってしまった。
鈍い音がしたような気がしたけれど、引き止めるに及ばなかった。



「先輩、ぼくはいつも先輩のそばにいますよ?だから・・・お仕事頑張って・・・」
「そんな言葉を聞きたいんじゃない!優!行くな・・・優!」



一緒に連れて行って欲しいと思った。
すべてを捨てても、一緒に行きたいとさえ思った。
もちろんそんな願いがかなえられるはずがなく・・・
「さよなら・・・さよなら・・・」
悲しそうに笑った優に、おれも悲しみいっぱいの笑顔で応えた。







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