star festival





<4>






じゃりじゃりと砂を食む音が遠くで聞こえ・・・る?
「あれ?み、三上・・・?」
「う、うわ〜ホンモノ!せ、先輩っ!先輩ってば!」
揺り動かされて、驚いて目が覚めた。
「起きたで?三上・・・何してんねん!」
「何してるって・・・崎山?それに・・・友樹?」
「まだ寝ぼけてんの?先輩・・・まさかここに一晩いたの?」
すっかり夜が空けてしまった空には、天の川なんてすっかり消えてなくなっていて・・・
「ゆ、優は?」
慌ててあたりを見回す。
「ゆ、優?優って・・・先輩、夢でも見た?」
「夢?んなわけないだろが!優っ、優っ」
呼んでも何の返事もなければ、ここにいたという形跡もない。
憐れむようにおれを見つめるふたりの瞳が、おれのバカな行動を物語っているようだった。
「三上・・・よう帰ってきたな・・・」
「崎山・・・」
「先輩、これ家の庭に咲いたんだ。すっげえキレイだからさ、優にも見せてやろうと思って持ってきた」
青紫色のたくさんの小さな花を、放射線状に先端に咲かせたその花は、まるで花火がはじけた時のようだった。
「アガパンサスっていうんだって。ユリ科らしいよ。オフクロがさ、優くんはユリが好きだったわよね、って持ってけっていうから」
優は植物が大好きだったけれど、特にユリが好きだと言っていた。庭にも植えていたような・・・
「こんなに細っこいのに丈夫でさ、植えっ放しでも毎年キレイな花を咲かせるんだって」
ちょっと悲しいけど優みたいだよねって友樹は笑った。
せかせかと花を包みから出して準備し始めたふたりの後姿を眺めながら、優のことを考える。
夢・・・だったのだろうか?
あのぬくもりも、肌や髪のすべらかさも、そしてくちびるの柔らかさも、全部夢だったのだろうか。
掴んだその腕や肩、抱きしめた細い身体のカタチまでも、しっかり覚えているというのに。
七夕の夜だから、その物語に自分たちを思い重ねて、そんな夢を見たというのだろうか。
ふと、握りしめていた手に違和感を覚え、ゆっくりと右手を開いた。
ボタン・・・?
つめの先くらいの、小さな白いボタン。
これは・・・

行ってしまう優にすがり付いて服を引っ張ったとき、確かに手ごたえを感じたのだ。
やっぱり、夢じゃない・・・夢じゃなかったんだ!
「お―――」
ふたりを呼ぼうとして止めた。
話したところで信じてもらえそうにないし、バカにされそうだ。

それに、話して聞かせるのももったいない。
おれと優、ふたりの秘密でかまわない。
秘密にしておけば、来年も会えるかもしれない。
そんなこどもじみたことを考えた自分を少し好きになった。
「うん、優に似合う!どう?先輩」
優の大好きだった花火のようなその花は、可憐だけれど凛としていて、優にぴったりだった。
「いいんじゃねえの?」
立ち上がると、そばに寄って行った。
改めて、手を合わせる。





優。会えてとてもうれしかったよ。
優。優が望んでくれたように、たくさんの人におれの歌、聞いてもらうんだ。
優。優への想いばかりを詰めこんだ歌で、たくさんの人が幸せになるように。





最期に、石碑にふれると、少し温かいような気がした。
「三上、いつ帰るねん」
「今日の最終便で帰ればいいんだ」
「なら、うち来いや。うまいもん食わしちゃるさかい」



おれは幸せだと思う。
たくさんの人がおれの歌を聞いてくれる。
地元に帰ると、おれを特別視せず、今までと同様に接してくれる友人がいる。
そして、心の中にはいつも愛する人がいる。
優。また会おうな。



「おしっ、久しぶりにお好みが食いたいかな?」
「うっわ〜なつかし!なんならたこ焼きもやいちゃる」
そういえば、四人でよくお好みパーティーなんていいながら盛り上がったっけな。
帰りにもう一度、会いに来よう。
その時には、おいしいお好み焼きとたこ焼きを持ってきてやるからな。
待ってろよ。
握りしめたボタンをそっとポケットに落とすと、おれはその場を後にした。



 

〜Fin〜









back next novels top top