I wonder which horse Victory
will smile on





<3>


〜side 三上


運ばれてきた料理を平らげ、デザートのアイスクリームも食べ終えると、優はイスを窓辺に移動させて、夜景を眺めだした。
「おまえ、よく飽きないな」
夜景に優を取られたようで、ちょっとムカつく。
「だって、都会の夜景なんて初めて見るから」
夜景っていっても、ここは新宿副都心。
周りを高層ビルで囲まれているため、見えるのはビルの明かりだけ。
ふたりっきりなのに、おれのほうを見ない優。
おれは、イスを優の隣りに運び、腰かけた。
「優、こっちきて・・・?」
素直に近づいてきた優を、おれの脚の間にすわらせた。
大きな深いイスだからこそできるこの姿勢。
ほんとは膝の上に乗せたいのだが、重いんじゃないかと気にするので、きちんとイスに重みがかかるようにすわらせ、後ろから抱きしめた。
優もおれの膝の上じゃないことがわかっているから、遠慮なく、おれにもたれかかってくる。
おれと同じボディソープを使い、おれと同じシャンプーを使っているはずなのに、いいにおいが鼻を掠めるから、優の髪に鼻先を押し付けた。
優の膝の上で、手をつかまえると、指を絡めておれの指を弄び始める。
「優は、おれの手が好きだなあ」
「だって・・・とてもきれいだし、ぼくは特にギターを弾いている時が好きです。とても機用に、なめらかに動くから」
褒められて、とてもくすぐったい。
「ねえ、先輩。東京の夜景って不思議ですね」
「なんで?」
「だって、ここから見える明かりは、街灯やなんかじゃなくてほとんどがビルの明かりでしょ?この明かりの分だけ、人がいるんですね」
「まだまだ働いてる人もたくさんいるんだもんな」
「夜景って普通はきれいで静かなイメージなんだけど、ここのは、人の動きを感じる。生命力を感じる。ひとつ明かりが消えると、家に帰るのかなって思ったりして。向こうから見ると、この部屋も夜景のひとつなんですよね」
優は、おれが考えもしないことを、おれに言葉で伝えてくれる。
自分が今考えていることを知って欲しいと、一生懸命に話してくれるから、おれもその話を真剣に聞く。
感受性の強い優の話は、おれの作る歌の世界にも影響している。
「東京か・・・いつかは出てきたいな・・・・・・」
呟いた言葉に優の身体がぴくりとした。
「もちろん、優も一緒に!なっ?」
優はふりかえろうとしたけれど、この体勢ではまともに顔も見れない。
おれは、優を立たせて、今度は向かい合って、おれの膝の上に跨ぐようにすわらせた。
「今日初めてのキスしよう?」
照れたように目を伏せたが、おれの首に手を回す。
あんまり激しくやっちまうと、後でつらいからな・・・なんて考えながら、くちづけた。
優はほんとにキスが上手くなった。
おれのせいだとわかっているから、うれしくてたまらない。
セックスの回数が限られているから、その代わりって訳じゃないけれど、もう数え切れないくらいのキスを交わした。
おれの推測だけれど、優はキスという行為が好きなようだ。
キスなら何回やっても怒らないし、自分からねだることもある。
ただ、優からしてくれたことは一度もないんだけれど。
軽くふれるだけのキスで止めておこうと思っていたのに、いつの間にやら、深い深い熱を絡めるキスへと変わっている。
何やら優が積極的で、おれを誘うかのように口内に侵入してきた。
薄目を開けて見てみると、必死におれのくちびるを貪っているらしき様子がうかがえて、おれはなされるがままに、舌を動かすのを止めてみた。
優がおれの舌に自身を絡め、好きなように動かす。
あまりに深いくちづけに、お互いの口端から蜜が溢れてきたので、口内にいた優の舌を軽く甘噛みすると、びっくりした優がくちびるを離した。
「優、すげーキスうまいじゃん。おれ、夢中になっちゃったよ」
口端を拭きながら、息を荒げる優に言った。
「もう、すぐそういう―――」
みなまで言わせず、くちびるをふさぐ。
今度は軽く。
これ以上は、我慢できなくなる。
まだ乾いていない、こぼれた蜜を舐め取ると、優は身体を震わせた。
優・・・そういう反応は誘ってるっていうんだぞ・・・・?
「優、明日早いから、もうベッドに入ろう」
おれたちは、窓辺からベッドに移動した。
ダブルベッドはほんとうに広い!二人が寝ても余裕たっぷりだ。
なぜか、ふたりのあいだに距離がある。
あまり近づきすぎると、お互いよくないかもしれない。
あのキスだけで、かなり身体にきてしまっている。
「ああ〜〜〜」
テレビを見ていた優が声をあげた。
おれは寝そべって、明日の競馬新聞を読んでいたから、何が起こったかとびっくりした。
「どうした?」
「先輩、なっ、成田さんが、本命に、ゴッドオブチャンスを・・・・・・」
起き上がって真剣に見ていた優が、がっくり肩を落としていた。
成田が本命に指名すればどんな馬でも必ず負けるという、とんでもない悪評を持つ有名競馬キャスターがあろうことかゴッチャンを本命に指名したのだ。
成田めっ!せっかく明日を楽しみしている優にこんな仕打ちをっ!
大丈夫だってと言いたいが、成田に本命にされてしまっては、慰めの言葉もない。
「優の応援で、成田なんてぶっとばせばいいんだよ」
「だけど、皐月賞だって、成田さんが・・・・・・」
そうだった・・・
「けど、優の好きなゴッチャンはそんなヘタレじゃないだろ?そんな予想に負けるほど、弱いやつか?」
「―――そうじゃない・・・」
「だろ?皐月賞だって、三番人気の二着。しかも首差。すげー馬なんだよ、ゴッチャンは。成田なんかにゃ負けないって!」
そうは言ったものの、嫌な予感はした。
おれは成田章の恐ろしさを知っている・・・・・・





番組も終わりを告げたのに、何を考えているのか優はベッドの上に座り込んだままだった。
おれは、競馬新聞をテーブルに投げ置いて、目覚ましをセットした。
指定席だからそんなに急ぐ必要はないが、とりあえず7時にセットする。
「優、もう寝ろよ。電気消すぞ?」
声をかけると、もぞもぞとシーツの中に潜りこんだ。
「じゃあ、優、おやすみ・・・」
「おやすみなさい・・・」
その声を聞いて、明かりを落とした。
おれは、素肌にシーツのこの感覚が好きで、パンツ一枚でシーツにくるまる。
優は、バスローブが気に入ったらしく、そのまま潜りこんでいた。
暗闇と静寂に包まれて、おれは目を閉じた。
しかしどうも眠れない。
同じ部屋で、同じベッドで眠っているのに、この距離がムカつく。
この数十センチの距離が。
優はおれに背を向けて、小さくなって眠っているようだ。
優の体温が懐かしい。
おれより、若干温かい身体。
「優・・・?」
呼んでみたが返事がない。
もう眠ってしまったのだろうか?

おれはもぞもぞと優のそばまで移動し、後ろから抱きしめた。
バスローブが邪魔だけれど、セックス防止のためには丁度いいかもしれない。
やっぱ、あったかいな・・・・・・
いい気持ちに浸っていると、突然腕の中の優が、おれのほうに向き直った。
「なんだ、起きてたのか・・・」
優はおれのわきの下から腕をまわし、おれに擦り寄ってくる。
おいおい、そんなにくっついちゃ―――
「先輩?」
胸に顔を摺り寄せている優の息が肌を刺激する。
「ん?」
優の柔らかい髪を指で弄びながら、半分意識をとばして返事をした。
「―――しようよ・・・」
そうだな・・・しよう・・・えっ??
「し、しようって・・・優、明日は―――」
「大丈夫だから!先輩が優しくしてくれたら・・・大丈夫だから・・・・・・」
表情は全く見えないが、恥ずかしがっているのはわかる。
この暗闇が、優にしようだなんて口走らせるのか?
「ねっ?」
甘えた声で念押しされて、おれはベッドサイドの明かりをほんのりつけた。
やっと優の顔が見える。
「―――いいのか・・・?」
「せっかくこんな素敵な部屋で、こんな大きなベッドがあるのに、もったいないし」
ガクッ・・・そんな理由かよ・・・・・・
「それに、さっきのキスから・・・ぼくはもうどうしようもないんだ。だからっ―――」
優のくちびるをくちびるでふさぐ。
優から誘われて、断れるはずがないではないか!優がおれに抱かれたいなんて!
「おれもだ・・・優・・・・・・優しくてキモチいいえっちしような?」
優のバスローブを脱がし、おれは温かい優の素肌に身体を重ねた。






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