愛するキモチ



<6>



「明日は晴れみたいだな。星がきれいに出てるぞ」
片岡に言われて、肩に頭をもたせかけたまま天を仰ぐと、空一面に星が瞬いていた。
「ほんとだ〜」
何か、ロマンチックじゃねえか?
おれの髪にたまにふれる、片岡の指が心地いい。
「先生ってさぁ、星座なに?」
「獅子座」
獅子座って、夏生まれじゃなかったっけ・・・?
「っつうことは、誕生日・・・」
「今日」
「ふう〜ん今日か・・・今日?」
「そっ、8月8日。縁起のいい日だろ?成瀬は2月2日だったな?」
含み笑いの片岡。
「なっ、なんで教えてくれないんだよっ」
そうだよ!んでもって、おれの誕生日ちゃんと記憶してて・・・おれ、また置いてけぼりじゃんか!
「言うのってプレゼント催促してるみたいだろ。それにおれ、この旅行が今日って決まったときうれしかったし。これがプレゼントかな〜って」
「この旅行ったって、あんたが全部カネ出してんじゃんか!」
「カネの問題じゃないだろ?」
「けど―――」
おれ、知ってたら、プレゼント用意したのに・・・高いものは買えないけど・・・・・・
「じゃあさ、今プレゼントくれよ」
「い、今?」
こいつ、また変なこと考えてんじゃないだろな・・・?
「そっ、すぐだから・・・」
「な、何かすんの・・・?」
おれは、ちょっと情けない声を出してしまった。
「おれはしない」
「―――じゃあ、なんだよ」
片岡はおれの頭から手を離し、今度はおれの両肩に手を置き、おれの身体を自分のほうにぐいっと向けた。
「キスしてくれよ・・・」
キ、キスだと〜〜〜?な、何を抜かしやがるんだ!お、おれに、お、おれからキスしろだと〜〜〜?
だから、おれはそういうの、出来ないって、わかってんだろうがよっ!
「だめか・・・?」
訴えるように、見つめられて、おれは固まってしまった。
今さら、キスごとき照れることはないし、これから夜にやることは、もっとスゴイことなのに・・・問題は、おれからキスするってことなんだよな・・・
「そっか・・・じゃあいい」
そんな困った顔するんじゃないよって、おれの肩から離れていった手を、おれは無意識のうちに取っていた。
「いいよ・・・してやる。今日は先生の誕生日だかんな」
またこいつの淋しそうな顔に負けてしまった。しかし、おれもオトコ、やると決めたらやってやるよ!
「マジで?じゃあ・・・」
そう言って、眼鏡を外して、おれの手を自分の肩に置かせた。
あれ?もう普段の片岡なんだけど・・・またやられたか・・・?
そう思ったけれど後の祭り。
ほ、ほんの一瞬だからな!ふ、ふれるだけだからな!
「目、閉じろよ」
目を閉じた片岡をマジマジと見つめた。
うへ〜こいつ、きれいな顔してんな・・・ま、睫毛なげ〜
「早くっ」
急かされて、くちびるをぎゅっと結んだ。
ゆっくりくちびるを合わせてみる。
自分から人にするのって初めてで、どうしていいのかわからない。
片岡って、いつもどうしてるっけな?あ〜いつもキモチよくなってしまって覚えてね〜
おれだって、こいつをキモチよくしてやりたいけれど、どうすればいいんだ?
やっぱ、舌入れるのか?
けど、口閉じてるのにどうやって入れるんだ?いつもは・・・

ぐるぐる考えてるうちに、苦しくなって、くちびるを離した。くちびるがふれ合っているだけの・・・キスだった。
「なんだ、舌も入れないのか?」
片岡がニヤニヤ笑いながら、おれを見た。
ムッムカつく!おれ、すげー真剣だったのに!
「そんなこと言うなら、もうぜってーやってやんないっ!」
肩から手を離し、立ち上がりかけた時、手をくいっと引かれ、おれは片岡の胸に落ちた。
胸にぎゅっと抱きしめられ、聞こえた片岡の鼓動がドキドキ早鐘を打っていた。
もしかして・・・緊張・・・してた?
「ありがと、成瀬・・・すっげープレゼントだ・・・」
透明感のある、うそのない声におれは思った。
もしかして、こいつも・・・強がりなだけかも知れないな・・・・・・





もう一度、風呂に入ると言うおれに、片岡は後で入るから部屋に戻ると行ってしまった。
「ひとりでゆっくり浸かって、準備万端で戻ってこいよ」なんて、恥ずかしいセリフを残して。
露天風呂には誰もいなかった。
ぱぱっと脱いで、ザブンと広い湯船にひとり浸かる。手足を伸ばしてリラックスさせて・・・
ああ・・・とうとうやってきてしまった・・・もうすぐおれ・・・・・・
ぶるっと身震いした。ふうっと大きく息をつく。
そういや、身体きれいにしとかないとな!
思い立ち、カランの前にすわって身体を洗った。
それはもう真剣に、隅から隅まで。特に前と後ろを念入りに。

もう一度、湯船に浸かると、肌がひりひりした。こすりすぎたようだ。
ばっかじゃねえの?おれ?
なんか笑えた。おれ、楽しみにしてんのかな?
最初から抵抗はなかった。
おれが突っ込まれるのには、げげっと思ったけど、今や自分からきれいに洗っている始末。
オンナと経験のないままってのは、少し悲しいけれど仕方ない。
あいつを好きになってしまったんだから。
だけど、あいつ、オンナとはかなり経験あるけど、オトコは初めてって言ってたな・・・
そうそうオトコと経験のあるヤツなんていないだろうけど、おれ、どうな風に抱かれるんだろうか。
オンナと比べられたりするんだろうか。

それに、おれ・・・どうなるんだろ・・・?あんあん喘いじゃったりするんだろうか・・・?
いや、それは恥ずかしい・・・ぜってーイヤだぞ?
最初はオンナも痛いらしいけど、オトコも痛いのか?
まあ、便秘の時だってあんなに痛いんだから、それなりに痛みはあるんだろうな?

感じたりするんだろうか?キスだけであんななってりゃ、そりゃ感じもするか・・・・・・
でも、恥ずかしいぞ?やっぱ恥ずかしいぞ・・・?
楽しみな反面、ドキドキする。
けど、おれがあいつを好き・・・なのは事実だもんな・・・?
おれ・・・ほんとにあいつのこと・・・好きなんだよ・・・な?






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