愛するキモチ



<4>



メシは・・・とにかくすごかった。
出てくるもの一品一品が美しく盛り付けられていて、どこから箸をつけていいやらわからないし、どれが食べられてどれが飾りなのかわからなかった。
しかも、普通の温泉旅館のように、最初からテーブルに全ての料理が並んでいるのではなく、一品ごとに仲居ができたてを運んでくるのだ。
「成瀬は、好き嫌いないんだよな?」
「まあね。昔から何でも食べるようにしつけられたからね」
「よかった。ここは、一度泊まるとその客の嗜好や出された料理がデータ化されて、二度と同じ料理は出ないんだ」
「おれなんかもう一生来れないかもな」
まさしくそうだ。こんな経験もうないかもしれない。
「おまえが、気に入ったなら、また連れてきてやるよ。冬の温泉もいいだろ?受験勉強の息抜きにな」
それって、おれとずっと付き合うってこと・・・か?
何だかくすぐったくなって、懸命に箸を運んだ。
「あんたさ、酒飲まねえの?」
普通こういう懐石料理にはつきものなのに、アルコールが見当たらない。
「おれ、大の酒好きだぜ?何でも飲めるし」
「じゃあ、頼もうよ。実はおれも―――」
「ダーメ!」
「なんでさ、堅いこと言わないで―――」
「おまえを抱くときは、素面でいたいからな」
げっ!そんなこと考えてんのかよ!おれは酒が入ってたほうが・・・・・・
「酒に流されてなんてイヤだからな。おれは真剣なんだから」
おれ、さっきからいろいろ考えてあたふたしてんのに、こいつは冷静にそんなこと考えて・・・余裕しゃくしゃくじゃんか!
「もし、この期におよんでおれがイヤだっつったらどうする?」
へんっ!どうするか答えてみろってんだ!慌てるか?あきらめるか?
「おまえは、そんなこと言わないよ」
笑みを浮かべながら言い切りやがった。
「そんなのわかんないじゃん。なんでそんな自信満々なわけ?」
「わけ?おまえもおれのことが好きだからだ」
「―――はぁ〜?」
な、何言い出しやがるんだ!おれは好きだなんて一度も言ったことないぞ?
「何だ?聞こえなかったか?おまえもおれが好きだからだよ。両思いだろ?恋人同士だろ?なぜ拒否されなきゃならん?」
おれって、一瞬主導権を握ったかと思いきや、瞬間にこいつのペースにハマリこんでるんだよな。
「じゃあ聞くが、どうして成瀬はおれと付き合ってる?キスしたら応える?」
眉をかすかに上げて、どうなんだと言わんばかりの顔で、穴があくくらい見つめられて、おれは黙り込んでしまった。
「まあいいさ。おれ、そういう意地っ張りな部分もひっくるめて全部好きだし。やっぱかわいいわ、おまえ」
おれはこいつに一生勝てないのだろうか・・・そんな予感がした。
学校のことやら何やらしゃべりながらの食事は、なんと二時間半にもおよんだ。料理が一品ごとに運ばれてくるってのもあるんだろうけど。
開けっ放しの広縁で、食後の一服を吸っていた片岡が振り返った。
「散歩でも行くか?」
「散歩もいいけど、風呂にも入りたい」
おれが言うと、じゃあそうしようと、担当の仲居に食事が終わった旨を伝えた。





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