テレンス・マン にとっての
"Field of Dreams"





自ら作ったグランドでシューレス・ジョーたちがプレーしている姿を満足げに見ていたレイに、
また、あの"声"が聞こえる。

"Ease his pain"  (彼の苦痛をいやせ)

"彼"とは誰のことなのか
"苦痛"とは何のことなのか



学校のPTA集会においてテレンスマンの著作
"The boat rocker" 「船を揺らす人」(世間に波風を立てる人の意)
が槍玉に挙げられているのをみて、
レイは、こう確信する。

"彼"とは、テレンス・マンのことで
"苦痛"とは、この集会のように非難の的になっていることだ


彼は・・・
1960年代には時代を揺らした若者達の思想的リーダーであったにもかかわらず、
今では非難と好奇心の的となり隠遁生活を余儀なくされている。

.

そして、レイは過去のテレンスマンのインタビュー記事の中に、
彼と野球との接点を見つける。

「私の子供の頃の夢は、
エベッツ球場でドジャースのジャキー・ロビンソンと野球をすることだった。
ドジャーズはブルックリンから去り、球場はなくなったが、今でもその夢を見る。」

原作でも同様に、サリンジャーのインタビュー記事がレイの心を動かしている。

  * * * * *

「子供の頃、ポログラウンズで野球をするのが私の最大の望みだった。
しかしその夢を叶えるには年をとりすぎたし、ジャイアンツは西海岸のサン・フランシスコへ本拠を移してしまい、
おまけに1964年にポロ・グラウンズそのものが取り壊されてしまった。」

  * * * * *

サンフランシスコ・ジャイアンツもロサンジェルス・ドジャーズも、昔はニューヨークに本拠を置いていた。



テレンス・マンはレイに語る。

「活動は死ぬほど経験したよ。
 頭まで浸かりきっていた。
 キング牧師とロバート・ケネディが殺され、
 あのニクソンが再選された。
 私が惨めな日々を送ってると君らは思うだろうが、
 惨めさはもう味わいつくしたよ。
 何も残ってないよ・・・
 私に答えを求め、皆の先頭に立つことを、求めないでほしい。
 自分達で考えて、私に構わんでくれ。」

学生運動の思想的リーダーが味わった失望と無力感がにじみ出ている。



原作では、あくまで「ライ麦畑でつまえて」によって、サリンジャーが非難と賛美と好奇心の的になっていることが、"彼の苦痛"だとしている。

サリンジャーはこういう。

  * * * * *

「いいかね、はっきり断っておくが、わたしはホールデン・コーフィールドじゃあない。
 自分の想像力でコーフィールドを創りだした手品師なのだ。」

レイは、サリンジャーが執筆を止め、読者の期待を裏切っていることを責める。

「それは読者が私を本気で受止めるからだ。その結果、私はプライバシーを侵害されている。
 しかしそれを防ぐ手はないんだよ。深夜映画を見たことがないのかね?科学者がすばらしい発明をする、がそれがどんどん大きくなって生みの親を滅ぼしてしまうというやつだ。」

  * * * * *

映画の中の "彼の苦痛" のほうが単純で分かりやすい。



テレンス・マンと行ったボストンのフェンウェイ球場で新たな"声"を聞き、スコアボードに映し出されたムーンライト・グラハムの名を見て、レイはグラハムの住む町、ミネソタ州チザムに向かおうとする。

テレンス・マンはいう。
「君の情熱がうらやましい。
 見当はずれでも情熱は情熱だ。
 昔の私にはそれがあった。」

フェンウェイパークから自宅への帰り道。
テレンス・マンは迷ったあげく、
自分もフェンウェイ球場でレイと同じに "声" を聞き、
見えるはずのないスコアボードの文字が見えたことをレイに告白する。

彼もまた、フィールド・オブ・ドリームスを夢見る人となった。
そして、レイの情熱がテレンス・マンの背中を押した。

彼もレイと一緒にグラハムを探すたびに出かける。

チザムの町で"若い頃"のグラハムを車にのせ、
アイオワに着いたテレンス・マンは、シューレス・ジョーから自分達と一緒に来ないかと誘われる。

トウモロコシ畑の向こう側に・・・

.

レイは憤慨する。
球場を作ったのは自分だし、テレンス・マンを連れてきたのも自分だ。
それに対して今まで何も望まなかった。
なのに、なぜ、自分ではなく、テレンス・マンなのだ・・・と。

テレンス・マンは執筆活動を再開することをレイに約束する。

「あそこに何があるのか、私にはそれを知る勇気があるし、素晴らしい本が書ける。
 "シューレス・ジョーアイオワに来たる" 」
二人は互いに笑う。
「それを本に?」
「書くとも」
「そうか」
二人は握手を交わす。

そして、テレンス・マンはトウモロコシ畑のなかに入っていった。


彼の"苦痛"は癒されのだ。




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