アニー・キンセラ にとっての
"Field of Dreams"





映画においても原作においても、レイの妻アニーはとても重要な役割を担なっている。

レイのとんでもない思いつきに対して、十分に理解を示し、許し、励まし、
夢の実現を後押ししている。
そして、でしゃばらず、レイとシューレス・ジョー、レイと父ジョンの世界と必要な距離を保っている。




畑をつぶして野球場を作りたい、という夫レイの願いに対して、
最初は、怪訝に思い、戸惑うが、最後には理解を示す。

「野球場を作りたい。頭が変かな。」
「ええ。でも、あなたが本気でそうしたいと思うのなら・・・するべきよ。」

レイが、はるばるニューハンプシャーまで出かけていって、テレンス・マンをボストンのフェンウェイ球場に連れて行きたい、と言い出したときには、

野球場を作っても、まだ足りないのか。
なぜ、「声」はレイにばかり要求するのか。
なぜ、テレンス・マンなのか。

どうしても納得できないアニーだが・・・

レイが、テレンス・マンとフェンウェイ球場でホットドックを手に観戦している夢をみたことをきき、

「私もその光景を夢で見た。」

そして、ボストン行きを応援している。
レイのフィールド・オブ・ドリームスにどっぷりはまっている。

原作ではもっとシンプルである。

  * * * * *

「アナウンサーは今度はなんて言ったの?」
「彼の苦痛をやわらげてやれ、て言ったんだよ。」
「それだけ?」
「それだけ」
「彼って誰のことかわかっているの?」
「J・D・サリンジャーだよ。」
「それと野球とどんな関係があるの?」

僕は沈黙する。アニーは矢継ぎ早に質問したいところだろう。
しかし彼女は沈黙したままだ。僕の胸に顔を伏せる。

「あなたのしたいようにして。」
「ここの暮らしはとても幸せよ。ここの幸せを守るために、あなたのやりたいようにしてちょうだい。」

  * * * * *

野球場を作るために、
畑をつぶし、貯金を使い果たし、親兄弟からは白い目でみられても、
レイが、目を輝かせて、生き生きと働いている姿をみて、
応援したいと思っている。

そこに、
アニーは自分のフィールド・オブ・ドリームスをみつけている。




また、アニーは自分の立場をよく理解している。

シューレス・ジョーが初めてフィールドに姿を現したときには、
「コーヒーを沸かしておくわ。」
と、レイとジョーとの最初の出会いには立ち入らない。

原作では、この場面をこう説明している。

  * * * * *

「わたしは二階でしばらく本でも読んでくるわ。シューレス・ジョーを家に招待してコーヒーでもごちそうしたら?」
その瞬間、ぼくは彼女に対して言葉では言い表せない愛しさをおぼえる。
アニーはもうすぐ魔法が始まるのを感じているのだ。
でも、自分がその世界に属していないことも知っている。

  * * * * *


映画の最後のシーンでは、
義父ジョンが現われ、レイとともに挨拶を交わすアニーだが、

「2人でゆっくりはなしを・・・
私は、大勢の人が尋ねてくる前に準備をしないと。
お会いできて 本当によかった。」

ここでもアニーは立ち入らない。

父と息子の失われた20年を取り戻す瞬間には、
自分は立入れないことを十分に感じている。


まったく、アニーは愛しい女房なのです。




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