2026-01-23
花絵巻(6)
 
 ピザハットでアルバイトしていたシャーロット。機知に富み、行動力にあふれる20代前半女性。
シャーロット・ブロンテ著「ジェーン・エア」英語本を読み終え、名前が同じというだけで、生まれた世紀も生い立ちも異なるのに、なぜかイメージが重なる。
 
 知り合った日、会話は短く、翌日、ブロンテ姉妹について教えてもらい、ジェーン・オースティンの映画で意気投合しただけなのに、あくる日も会えないかとさそわれ、母親の遺品「嵐が丘」の20世紀初頭版を持参、差し上げたいと言った。光栄と恐縮で身体が膨らみ、縮んだ。
 
 申し出を断ったけれど押し問答になり、それを私たちはどこかで楽しんでいたように思う。
西欧女性の活発さは20歳で知っていたが、無防備な若さが互いを引き寄せるだけで、活発と行動力は似て非なるものだ。無闇矢鱈と動くだけならメダカにも行動力はある。
 
 シャーロットは歓談しながら相手を理解しようとしていた。共通の話題が数種以上あったのは巡り合わせなのだろうけれど、話を合わせるのではなく集中する姿勢が伝わり、好感を持てた。集中は共感を生む鍵である。
 
 小生は消極的な人間が苦手。引っ込み思案なだけなのに、慎重だと思い込み、自らを過大評価する人間はさらに苦手。引っ込み思案と消極は隣人同士、前進せず立ち止まっているのだが、勘違いしたまま老いていく。
 
 他者の不利益になるから口を閉ざすならさもありなんなのだが、自分の利益のために口を閉ざす、もしくは言葉を濁すのが処世術と考えるのは不心得ではないのか。人生80年として、不心得と得心して行動してきたわけではないだろうに。行動力に欠ける人間はみな同じ顔をしている。相手を理解しようと努めず、自意識過剰で共感を大切にしない顔。
 
 シャーロットとの出会いから27年、いまさらのように思い出すのは、最近購入した英語版「ジェーン・エア」の表紙の絵がシャーロットに瓜二つだったからだ。経験をよみがえらせるのは経験である。
 
 英国は経験主義の父ともいわれるジョン・ロック(1632−1704)を輩出。高校の世界史に出てくる有名人物。ロックの権力分立論はモンテスキュー(1689−1755)の三権分立に影響を与える、ということは高校の世界史で学習した。
 
 シャーロットのことを考えていたら記憶がよみがえる。「エディンバラの動物園、行きましたか?」。彼女が不意に質問した。行ってない。「時間を取れるならお勧めです。1914年に世界で初めてペンギンを飼育し、繁殖させました」。そこから動物の話になって、「ヒョウの斑紋(Spots)って梅(Plum)の花びらみたい」と言う。
「動物で特にお気に入りは何ですか?」と尋ねられ、「キリンです。のっぽで、あのようなスタイルの動物はめずらしい。顔はラクダのようで全然ちがうし」と応える。シャーロットは同感だと言わんばかりに目を輝かせた、
 
 シャーロットは1990年代半ば、16歳のころ姉に連れられてスペインを旅したらしい。姉は大学生だった。古都トレドはステキで、グラナダもよかったけれど、バルセロナ動物園で白いゴリラを見て「わぉ〜」と思ったという。小生もランブラス通りの店に置いてあった絵はがきで白ゴリラは知った(1987)。動物園は行かずじまい。
 
 デンマークの画家ヴィルヘルム・ハンマースホイの描いたアナ(ヴィルヘルムの妹)が英語版ジェーン・エアの表紙とわかり、作品を調べているうちに幾つかの絵と出会った。上のアナの画像はおそらく30代〜40代と思われる。シャーロットは現在50歳前、元気に暮らしているだろうか。交通事故で片足が不自由になったお姉さんは。回想は続く。

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