2007-08-07 Tuesday
論客
 
 第167臨時国会がきょう召集された。参院選の自民党惨敗が今後の政局にどう反映されるか予断を許さない。容易に予想できたとはいえ、昨年9月26日この項に記した「安倍内閣(の出航)」は暗礁に乗り上げてしまった。
 
 奇しくも本日(8月7日)、りそな銀行主催の投資信託セミナーが大阪ヒルトンホテル・桜の間で催され、舛添要一の講演「揺れ動く内外情勢と日本の進路」を聴く予定であったが、臨時国会で氏は来阪できなくなり、代わりに約30分の録画ビデオ出演となった。
ナンバー1の青木氏が自民党参院会長を辞任、ナンバー2の片山氏は「姫の虎退治」とやらに遭って落選し、ナンバー3の政審会長・舛添氏が重責を担うハメに。能ある虎が敗れ、西も東もわからない姫の登場とは、岡山の将来も危うい。
 
 参院選前から首相批判を続けてきた舛添氏であるが、途端にしなくなったのは、参院選惨敗後のドタバタで一気に氏が浮上し、安倍改造内閣の閣僚ポストも視野に入ってきたからだという話もある。改造しようがしまいが、安倍内閣の寿命は早ければ今秋、おそくとも来春までか。安倍首相の延命があるとすれば理由は一つ、党内に小泉さんのごとく宰相たりうる魅力をそなえた対抗馬が見当たらないことだ。
 
 セミナーは、舛添要一の代打で田原総一朗が出てきた。田原氏は、自民党総裁が小泉さんから安倍さんに交替したことで一番喜んでいるのは小沢一郎といっていたが、もっともな話である。
閣僚選びのさい、小泉さんには飯島秘書官という調査の鬼がいて、小泉さんの「調べておいてくれ」の一語で飯島氏は即行動した。
 
 彼の身体検査の徹底ぶりは見事というほかなく、小泉首相在任1980日に閣僚を辞めたのは、外務省&内閣官房とケンカして更迭されたわがまま真紀子と、スキャンダル発覚で辞任した農水相・大島理森の二人だけである。
安倍さんの側近はそこが甘い。手抜き調査は国民に果実をもたらす代わりに不利益をもたらす。そしてまた安倍さんは、あってはならない発言をした閣僚、あるいは、不祥事をおこした閣僚や官僚の更迭を躊躇する。そこも甘い。総じて安倍さんの指導力不足というほかない。
 
 田原氏は小泉さんを評して「血も涙もない」と彼独特(田原節)の話術をくり出していた。
むろん、ほめことばである。社保庁の一件についても、「小泉さんなら、大臣の首、事務次官や社保庁長官、局長の首さえ切っていたでしょう」と。
そうしないと国民は政府にも自民党にも背中を向けるからだ。民意を掬い上げることに敏く、人心掌握術に長けた小泉純一郎は小沢一郎の目の上のタンコブ、安倍さんなら大歓迎ということなのだ。
 
 小沢一郎は「消費税は上げない」とか、「農家一軒々々に保障を」とかをエサにして地方の一人区を廻り参院選を勝利に導いた。「小沢さん、財源はどこから引っ張ってくるの?」との田原氏の問いに、小沢氏は「どうとでもなる」と応えたとか。小沢氏こそが古い自民党体質の継承者、小沢氏主導の政治体制となれば歴史のカレンダーは間違いなく逆戻りする。
 
 先を急ぐ。田原氏の講演を聴いて耳に残ったのは、厚労省事務次官に直に田原氏が訊いた話として、年金問題には実はもっと大きな隠し事が社保庁内にあるらしいということだった。すでにそれは民主党・長妻昭氏が把握していて、9月の国会で表沙汰にされる可能性もあるという。それは何か。
 
 ブッシュ大統領、ライス国務長官の任期は2009年1月で切れるわけであるが、この両名、実績らしい実績を残さず任期切れを迎えるわけがなく、ライス氏はハーバード大・学長ポストを蹴って国務長官職に就いた(コリン・パウエルの後任)という話もあり、このままでは自叙伝の売れ行きに影がさすのは必然、ブッシュ氏ともども斜陽の後半生を余儀なくされるということもないわけではない。
 
 そこで六カ国協議の主導権をにぎり、彼らの在任中に米国&北朝鮮の国交樹立があるかもしれないというのだ。国交樹立がブッシュ&ライスの成果だと皮肉っているように受け取れなくもないが、拉致被害とは無縁の米国からみれば成果であるだろう。総じて、言いたい放題できるのが論客であってみれば、こういう語り口は田原総一朗の独壇場。
 
 外務省筋の話としてこんなこともいっていた。「拉致被害者のうち二人が生きている。その二人を日本に返したら、北朝鮮の評価は上がるだろうか」との打診が北朝鮮から外務省にあり、「それはありえない」と外務省は答えたそうである。
家族の身になれば当然で、全員の無事帰還という大前提を譲ることはできない。内部機密を知っていて、返すに返せない人も入れれば、北朝鮮で生きて暮らしている方たちはもっと多いと思われる。だが、その二人とはだれか。心重く、釈然としない夏の日である。

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