2006-09-26 Tuesday
安倍内閣の出航
 
 ひらめきと肚(ハラ)の小泉さんが約束通り退陣し、安倍さんの時代が到来した。見た目に船出はいたって順風満帆であるが、これからの航海が波乱なく進むかどうかは予断を許さない。いまはともかく、今後なにかとメディアが小泉流と比較することは疑いの余地はなく、いつものように国内外で難問が山積している。
 
 安倍内閣は短命となるのではあるまいか。そんな気がしてならない。今回の組閣をみると短命を暗示している。大臣の顔ぶれをみれば誰の目にも明らかで、これは論功行賞人事以外の何ものでもない。自民党総裁選に向けていち早く安倍支持を打ち出した丹羽・古賀派、伊吹派からの入閣が多すぎるのである。
 
 この陣容では適材適所といい難かろう。農水相に松岡利勝氏。米国産牛肉輸入問題に手腕をふるったという理由からなのかもしれないが、ほんとうだろうか。場当たり的なものだったのではないだろうか。辞任に追い込まれる可能性のもっとも高いのが松岡氏であるような気がするが穿ちすぎか。
 
 官房長官に塩崎氏を配したのもどうか。単なる官房長官ならまだしも、拉致問題担当ということになると話は別、塩崎氏は線が細い。閣内ではないが、石原伸晃氏を幹事長代理に配したのも問題。
石原氏は政策においてすぐれてはいるが、人の顔色をうかがいすぎるし、頻繁にゴマをする。幹事長や幹事長代理に求められるのは細やかさと剛胆さであって、中川秀直・新幹事長とは大違い。中川氏は適任。政策通というだけではこの国の牽引役として負担が大きかろう。
 
 党三役の人選はまずまずといったところ。幹事長は来年夏の参院選への布石ということだが、内閣がこのような顔ぶれとあっては、民主党首につけ込まれよう。
老壮青のバランスをとるだけでは安定した航海は望みがたい。各メディアは、憲法改正問題、靖国問題に関連した日中外交をことあるごとに取り沙汰する。それだけでも難問なのに、年金問題やテロ特措法延長問題などの解決も困難を極めるだろう。会議は踊らず、進みもせず。
 
 政策集団に課せられているのは、すぐれた政策かどうかより、いかにしてそれを国会の壇上に持ち込み、法案を通して具現化していくかである。むろん、世論の趨勢を味方にせねばならない。頭より肚が必要とされるのである。そういう意味において今回の閣僚のほとんどはまことに頼りない。圧力が加わるとポキンポキンと折れそうな感じがする。
 
 安倍さんが窮地に陥ったとき、だれが安倍さんを守りうるのか。麻生氏と党三役の中川(秀)幹事長&中川(昭)政調会長のほかは自分を守るのに汲々とするだけであろう。増員された五名の首相補佐官は、中山、小池の両女性の奮闘が見もの。
上記五名を除く閣僚と補佐官は、安倍総理の味方のようでいて結果的に安倍さんの足を引っ張りかねないという危惧を私は打ち消せないのだ。安倍号の前途は多難である。
 
 ただ、この組閣は参院選までの暫定内閣であるという見方もできる。安倍総裁実現にいち早く挙手した派閥を優遇する(論功行賞)ことで彼らをなだめ、参院選用に全国的に顔の売れている石原伸晃氏を起用(幹事長代理)し、官房長官はスマートで女性受けしそうな塩崎氏を充てる。それが安倍さんの最初の一手ということなのかもしれない。
 
 気が早すぎるとの誹りを承知の上で、早晩(参院選を待つしかないか)、第二次改造安倍内閣を発足させ、私たちの目を奪った小泉さんのようにクリーンで活気ある状況を構築してもらいたい。安倍さんはレストランで食事したおり、会計をすませたあと、「あ、駐車券をもらうの忘れた」と言ってレジに引き返す庶民。私たちの感覚に近く、親しみを感じる。
 
 安倍内閣に対して漠然と感じている不安‥この顔ぶれだと近々息切れするのではないか‥を払拭してもらいたい。息切れ内閣と命名されることのないよう体力を維持するとともに、来夏の参院選に惨敗せぬよう望みたい。敗れれば第二次も改造も絵に描いた餅である。

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