2005-08-23 Tuesday
田中 康夫
 
 何かやるかもしれない、何かやりたくてしかたない田中康夫氏が新党日本の代表となった。小泉改革の余波は各所のおよび、地元選挙区事務所、立候補者、関係者はテンヤワンワの大騒ぎとなったが、なに、冷静に見れば、続きものの紙芝居である。
 
 田中康夫氏が新党の起ち上げに担ぎ出されたことは、当人がいちばんよく知っていることであり、それを承知で郵政民営化反対議員の尻馬に乗ったのは、小泉さんの改革、国民に信を問うという方法が、ペストのごとく蔓延するのは問題と判断したからであろう。
 
 党総務局長・二階氏の画策により、小林興起の対抗馬に充てられた小池百合子は小林氏にとっては難敵、そうとうな苦戦を強いられることはだれの目のも明らかである。小林氏の選挙区が東京である以上、厳しい選挙戦を乗りきるには、国民新党代表の綿貫民輔氏は田舎向きゆえ無理。そこで田中康夫の知名度にたよったということなのだが。
 
 元来、ヤスオちゃんは反骨の人である。小泉改革そのものに反対というのではなく、小泉流に反対ということなのであり、国民の過半数以上が一人の政治家に同調することに反対なのである。
 
 ずいぶん以前に、「ファティッシュ考現学」であったか、田中康夫氏の著書のなかで、日本航空の批判を大々的にやったことがあった。それは、香港を筆頭に、アジア諸国で航空券(格安航空券ではなく普通運賃の航空券)を購入するのに較べて、日本で購入すると約3倍の値段がかかったからで、その価格統制をおこなっていたのが日航であった。日本航空は為替相場を調整できないから、価格相場を勝手につり上げていたのである。
 
 ブランド品ならいざ知らず、航空券の価格が国によってそんなにちがう。これは由々しき問題である、田中氏はそのように思考した。田中氏は朝日ジャーナル誌にその事実を書きつづけ、それを一冊の本にまとめたのが上記の「考現学」。
 
 当時、バブルの華やかなりし頃であったが、大阪・神戸などのビジネスマンが出張でヨーロッパに行くとき、北回りやモスクワ経由ではなく南回り、すなわち、香港やシンガポール、バンコクなどを経由して旅立ったのは、香港をはじめとするアジアのどこかで購入発券したチケットのほうが格安だったからである。
 
 田中氏はとかく独占を嫌う。ふつうの旅行者の視点で見れば、信用と安心を保障してくれるなら、だれだって安いほうがいい。日本航空はその点、ユーザーをないがしろにしすぎる。その考えはまったく妥当であり、田中氏の連載に拍手を送っていた人も少なからずいたはずである。
 
 さて、今回の解散総選挙とその後の自民党幹事長、総務局長の選挙戦にみられる小泉流方法論は、田中氏の目からは、国民を巻きこんだ上のある種の独占と見えるのであろう。各新聞社の世論調査による小泉さんと小泉内閣の支持率が50%をかなり超えていることから、そういう判断をしたようにも思われる。
 
 そうであるなら一石を投じなければならない。その思いが田中氏の論拠であり、ヤスオちゃんのおちゃらけパフォーマンスは世上の顰蹙を買うこともあるが、この人は元々そういう人であり、好意的に見れば、裏表の少ない人とも考えられる。自ら演じるのも好き、周囲からのリアクションも好きというタイプの人なのである。
 
 そうこういう間にも、紙芝居のつづきは毎日上演され、見物は三々五々あつまってくる。こいねがわくば、紙芝居に飽きない見物が一人でも多いことを。

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