2005-03-09 Wednesday
まだ成仏させてくれんのか
 
 兵庫県伊丹市で今月7日にあった話である。
 
 伊丹市在住の金岡久次郎さんは新聞各紙の京阪神版にも掲載されたことのある県内最高齢の老人だった。敬老の日に伊丹市から祝い金が6回ほど贈呈されており、各紙も久次郎さんの長寿を祝っていた。いま存命なら107歳である。
 
 ところが、あにはからんや久次郎さんはすでに死亡、遺体は一階8畳に敷かれた布団のなかでミイラ化していた。長男(75)が親戚に連絡をとり、親戚が金岡さんの自宅を訪ねて発覚、伊丹署員に通報したのであるが、久次郎さんがいつ死亡したのかは長男ら家族三人以外だれも知らない。
 
 なぜ死亡届を出さなかったかについてはご家族に問うまでもないことで、ついては各紙も派手に取り上げたのであったが、生命保険に加入していれば、ご家族も早々と死亡届を伊丹市役所に提出していたことであろうと思われる。
 
 それにしても国民年金や福祉年金だけが頼りの高齢者はあわれである。ひとり年間80〜90万円では食べてもゆけない。市役所から市幹部が金岡さん宅を何度も訪問したらしいが、ご家族は頑なに拒否したという。存命なら拒否することもなかったろうに。
 
 伊丹市は、久次郎さんに支払っていた福祉年金を、時効分をのぞく5年前までさかのぼって返還請求するもようであるという。
死亡届けを出さなければ故人とならないのが制度上のタテマエゆえどうしようもない話ではあるが、長いあいだ布団に寝かされていた身にもなってみれば、これだけ家族みんなが辛抱したのだから、いったん受け取ったお金の返還は勘弁してくれと言いたいのではなかろうか。
 
 一日も早く成仏したい、させてあげたい、心のなかでそういう気持とそうでない気持とが相剋していたはずである。。その結果、もういいかげんに成仏させてくれやという久次郎さんの気持がようやく勝ったのかもしれない。

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