2004-12-28 Tuesday
「冬のソナタ」に見るゆたかさ
 
 過去よりも現在、そして未来のほうがゆたかであるべきはずであると人はねがう。しかし私は、いつのころかは忘れたが、現在より過去のほうがゆたかであると考えるようになった。現在は未来への日程をこなしているにすぎないと思うようになった。
現在にくらべると過去はゆたかさにみちあふれている。そこには無数の哀歓、怒りにも似た嗤い、たえがたい苦痛、極度の緊張がひしめきあっている。
 
 私はいまでもそうだが、たとえ心惹かれるものであっても、通りすがりのものを愛することはない。私を真実の扉へいざない、魂を震撼せしめるものしか愛することはできないのだ。それが私を漆黒の闇へといざなうものであったとしても。
真実の扉へいざなうものはすべて、私自身の急所に届く。急所‥あえて言葉にするなら爛熟と孤高。それはあたかも隠遁者の嗜好のようなものではなかったか。
 
 「冬のソナタ」はドラマに望むべき要素がすべて凝縮されている。脚本、演出、音楽、キャスティング、演技力=思い入れなど。ユジン役チェ・ジウの演技もすばらしいが、特筆すべきはチュンサン役ペ・ヨンジュンである。
ふとした瞬間に片岡仁左衛門を想起させる類まれな思い入れと容貌。古典歌舞伎、義太夫狂言は、義理ある人への、あるいは、愛する者への自己犠牲がテーマである。そこのところの思い入れ、感情表現がなんともいえないのである。いつの間にか、彼らの息と私たちの息が合い、息ができないほどせつなく苦しい。
 
 人はだれも自分の過去を変えることはできない、自然を変えることができないように。変えられると思うのは、変えるのではなく壊していることを知るべきである。
 
 「冬のソナタ」は現在より過去のほうがはるかに、せつないほどはるかにゆたかであることを物語っている。すくなくとも、そのことを暗示している。特定の世代の強い支持を受ける理由はそこにあって、ほかにはない。
そしてさらに、点描的に過去を現在と対比して描くだけでなく、過去がどれほど濃密で憂愁にみちているか、深淵なる時間の経過が刻まれているかを描き、再生への道をさぐる男女の真摯なすがたをあざやかに描き出しているのである。
 
 
  毎日新聞ウェブ版は12月28日19時13分次のように報じた
 
  「冬のソナタ」に出演した韓国の俳優ペ・ヨンジュンさんが、「新潟中越地震の被災者に」と、県に義援金3000万円を寄付した。現在、全国を巡回開催中の写真展の収益の一部という。県東京事務所によると、24日夕、代理人が事務所を訪れ、小切手を託した。
 
 ついでといえばなんですが、「冬のソナタ」で主役のユジン役を演じた韓国女優チェ・ジウは、東京映画祭に招かれて来日したとき、中越地震の被災者に米ドルで1万ドルを寄付しました

前頁 目次 次頁