2004-12-18 Saturday
二村 伸(二)
 
 12月18日午後9時放映・NHKスペシャル「イラク・最前線で何が起きていたか」で久しぶりに二村伸をみた。二村伸をこの前みたときはNHKベルリン支局長だった。ところが、半年ほどみないうちにベルリン支局長はほかのスタッフに代わっていた。二村はどうしたのか、ほかの支局に移ったのか、帰国して、ちがうセクションについたのか、ずっと気がかりだった。
 
 二村伸はいま、制作統括という立場でイラクに関する番組づくりに携わっていた。それが上記のNHKスペシャルである。2003年4月11日「きょうのトピック」の「二村伸」で記したように、二村ほど戦場の似合う報道記者はこの国にはいない。
二村は戦場をかけずり回り、日常的に野宿を余儀なくされ、非常食の世話になり、それがために歯がボロボロになり、そしてまた、繰り返し危険にさらされる。それでも二村伸は戦場にのこる。最前線にあって、二村ほどの迫真、臨場感をほかのだれが表現、あるいは伝達しうるというのか。
 
 1917年、米国のジャーナリストのいった言葉と前置きして二村は云う、戦場でいちばん早く犠牲者になるのは真実である。報道の使命はつねにありのままを伝えることであり、真実とされる出来事を捏造してはならない。捏造されたものをそのまま流すと、流された映像が真実として受容されるの場合があるからだ。
 
 12月18日のNHKスペシャルは、バグダッドに派遣されたアーカンソー州兵の1年半、米国政府とカタールの衛星放送・アルジャジーラとの攻防を通じて報道の在り方、報道の自由を問う。
アーカンソー州の州兵は兵といっても正規のものではなく、アーカンソー州民が志願して月一回訓練をおこない、ふだんは水害などの復旧に従事。使用する設備、什器備品も古く、世界一の最先端装備を誇る米国軍のものとは大違いで、州兵はその古い装備のままバグダッド入りする。
 
 彼らにとって何がつらいといって、家族との別れほどつらいものはほかにないだろう。。それは爆撃で家族を殺されたイラク国民とておなじである。まして、別れは永遠の別れなのだ。米国政府は武装集団を空爆したと発表し、民間人だけが犠牲になったときは誤爆と称しているが、本当にそうなのだろうか。番組は疑問を投げかける。
 
 アルジャジーラは米国政府にとってイラク戦争以来の目の上のタンコブ、米国政府に不利となる映像、情報を流していると米政府に決めつけられている。アルジャジーラ・バグダッド支局を誤爆し、犠牲者が一人出たのも、実は誤爆ではなく、アルジャジーラへの警告であるだろう。誤爆と偽ったのは自国民と国際世論を敵に回さないための方便、だが、天知る、地知る、人も知るのである。
 
 戦場での人間とその状況、多くのごまかしと欺瞞、百鬼夜行の在りようをつぶさに見てきた二村なら、戦場が舞台のドキュメント番組制作にうってつけ、彼以上の適役は見当るまい。

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