2003-10-25 Saturday
三つも勝っちゃった
 
 10月24日、阪神タイガース星野監督・インタビューのことばである。
ダイエーホークスに福岡ドームで二連敗したあと甲子園球場で三連勝、すべて一点差の勝利だった。剛腕で鳴らした星野氏の言ゆえ面白い。
三つも勝っちゃったという言い方に可愛いと思った人もいるだろう。健康上の理由で勇退を決めたあとだけに、ものの言い方がさらりとしてきたのかもしれない。
 
 剛腕、辛辣であるから、「三つも勝っちゃった」が生きてくる、つまるところ意外性である。強い男はそうでないと塩梅が悪かろう。世間でよく言うではないか、強さはやさしさ、強さはさわやかさと‥。なに?、前者はきいたことがあるけれど、後者は初耳ですか。
 
 真のスポーツマン・シップはやさしさ、すがすがしさ、いさぎよさではあるまいか。
勝負にトコトンこだわったあとの三拍子、それなくしてスポーツマンとは笑止、スポーツマン・スピリッツはそこに発祥し、帰還する。三つのどれも持たず、最初から最後まで勝ち負けにこだわるだけのことなら、ただの固執親爺である。
 
 舞台がオリンピックで、相手がアメリカ、キューバ、韓国なら必ず勝たねばなるまい。
だが、国内における覇権争いへの過剰なるこだわりは後味の悪さをのこす。近年、執拗な人間が急増したせいか『過ぎたるは及ばざるがごとし』ということばが意味をなさなくなった。
 
 元来私たち日本人は執拗さに辟易し、安寧と中庸を好む国民性である。かつての巨人軍V9などにはゲップの出る体質なのである。勝つためには手段を選ばずという気質とは一線を画し、負けたからといって闇雲に怒るようなことを恥とし、納得のいく負け方なら矛を収める。そして、『負けてなお強し』ということを認め、負けても、ベストを尽くした者のすがすがしさに対して喝采と感謝状を贈る、そういう国民性なのだ。
 
 洋の東西を問わず多くの人々がスポーツを愛好するのは、スポーツがスリリングで面白く、勝者と共に勝利の美酒に酔うという、だれもが分かる確かな理由のほかに、スポーツにある種の騎士道精神が介在し、その発露が垣間見られることにもよるだろう。
騎士道は凛々しさ、自己への厳しさといさぎよさ、他者へのいたわりを拠りどころとする。
 
 野球が日本の国民的スポーツといわれるのは、単に面白くて人気があるということだけでなく、どこかに、なにがしかの騎士道精神に通じる要素が存在するからであると思われる。
 
 さて、日本シリーズの明日からの展開を占うのも一興であるが、どちらが優勝するにせよ一年の締めくくり、勝っても負けても、監督、選手のすがすがしい顔をみたいものである。
王さんか星野氏、どっちかが四つも勝っちゃうのであるから。

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