2004-10-01 Friday
団十郎の復帰
 
 団十郎がきょう復帰会見をおこなった。五月十日の歌舞伎座休演から約五ヶ月、長いような短いような闘病生活を乗りきった。団十郎の言によれば、フランス公演という目標があったので快復も早かったそうである。
 
 長いような短いようなと記したのは、この人が白血病(急性前骨髄球白血病)ときいたときの衝撃ほどには団十郎の闘病は深刻ではなかったからである。その理由は、治療法の進歩ということもあるが、それよりなにより団十郎のめげない性格に依るところ大である。
投薬治療(無菌室で4回おこなったらしい)でこんなに早く元気になるということが分かっていたら、私もこんなに心配しなかった。まずは一安心である。
 
 あれは師走南座の顔見世であったか、団十郎が「外郎(ういろう)売り」で突然うまくなったのは。それまではこの人の口跡のわるさが気になって仕方がなかったのであるが、そのときを境に気にならなくなった。
気にならないどころか、あの独特の鼻にかかった口跡がこの人の持味であると思いはじめたのである。役者としてうまいと思うことはなかったのに、そして、この人を形容するとき、いまだに適当なことばが見当らないのに。
 
 仁左衛門のようにハラがあって役柄の彫りに深みを加えるというのでもなく、颯爽としているわけでもない。勘九郎のように滑稽味のなかにキラリと光る何かがあるわけでもない。菊五郎のように舞台いっぱいに色気が広がるというのでもない。三津五郎のように踊りがうまいわけでもない。
 
 しかし、団十郎の助六は断然いいのである。団十郎の助六をみたら、ほかの役者の助六は実に物足りない。それをニンというのならたしかにニンとも思うが、私はこの人の性格のよさ‥明るさとか華やかさというだけでなく、辛抱強さ、面倒見のよさともいえる何か‥が役柄に花を添えているようにも思うのだ。
 
 団十郎のことはここではなく「歌舞伎評判記」にあらためて書く予定なので、興趣のおもむく方はいずれそちらで。まずは病気快復を祝いたい。

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