2004-08-23 Monday
小さな巨人
 
 野口みずきがアテネ・女子マラソンを制した。27キロ過ぎに野口がスパートしはじめたのを見て、早いのではないかとハラハラしどおしだったけれど、ケニアのヌデレバが35キロ過ぎからじりじりせまってきたけれど、野口は最後の力をふりしぼってゴールをかけ抜けた。
 
 身長150センチ、体重40キロの野口が金メダルをとった。中国で一ヶ月1350qの走り込みをしたという。過酷な練習が苛酷なレースを勝利へと導いたのだ。
野口のスタッフ陣はあらかじめ綿密な作戦を立てていた。当日のアテネの気温、きつい上り坂の数と角度から予測される各選手のタイムと疲労度、残り5q地点に来たとき、どのくらいのタイムで走れば優勝できるか、などをシュミレーションした上での猛練習だったという。
 
 夕方をすぎてもアテネは暑かった。ましてや、コースはきつい上りと長い下りの連続、世界記録保持者のラドクリフが36キロ過ぎで途中棄権したほどの厳しい気候とコースであった。しかし、土佐と坂本もそれぞれ五位、七位と大健闘した。
ほかの国際マラソンとちがってオリンピック・マラソンは別格というか特別である。毎年開催される国際マラソンではただの42.195qでも、オリンピックとなると、死に行く五輪となるのである。
 
 野口がゴールした瞬間、なぜか無性にかなしくなった。よろこびよりかなしさのほうがまさった。こんなに小さなひとでも、想像を絶する力を発揮する。野口の健気さに胸がいっぱいになってどうしようもなかった。野口はレース前のあらゆる杞憂と不安をすべて吹き飛ばしてくれた。
 
 みずきの名はご両親がハナミズキにちなんでつけたという。ハナミズキの花ことばは『私の想いを受けてください・返礼』である。野口は花ことばのとおりしっかりと想いを受けとめてもらったのだ、たぶん神さまに。小さな巨人、野口みずき。

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