2003-10-22 Wednesday
有栖川宮のご落胤
 
 江戸時代に徳川将軍のご落胤と称する天一坊なる者が現れた。無論自称である。
天皇やお公家のご落胤となると、毎年のように現れる。ただのお化けなら夏と相場は決まっているのに、彼らは季節を問わない、のべつまくなし、現れたいときに現れる。
 
 私が子供のころ、やはりいた。大国主命の子孫、讃岐に配流となった崇徳上皇が当地の女と交わって生まれた子の末裔、南朝・後醍醐天皇の末流など、まことにもって猥雑というか面白かった。大国主命は記紀を読むかぎりにおいて稀代の艶福家であり、ほうぼうで婚合(くながひ)したてまつり、おおぜいのお子をもうけられた。
明治時代以前ならいざ知らず、21世紀にご落胤とは笑止千万、相手は天皇家ご一族、梨園の一族ではないのである、だから外戚と名乗ったか。
 
 これが関西なら最初から相手にされない。相手をする者がいるとすれば、ご落胤とか外戚と称する胡散臭い輩の上前をはね、そやつを利用してピンハネする詐欺師だけである。逮捕前に男を殿下と呼んでいた女、あるいはもうひとりの男がそれに該当するのだろうか。いずれ劣らぬ詐欺師とペテン師、キツネとタヌキの化かし合い。
 
 さすが東京、いろいろな人がいる。金は持っていても身分を金で買えず、身分の高さへの憧憬を隠し持つ。身分などとはまったく失敬な話ではあるが、私がそう思っているのではない、臨席した彼らにそういう心理がはたらいたのである。そして、そこにつけこまれた。
 
 傑作なのは祝儀に5千円しか包まなかった男、もしくは女。一番多い人で30万円包んだと巷間伝えられているけれど、5千円包んで結婚パーティに参加した人は拍手喝采ものである。そもそもいかがわしいパーティである、5千円で十分と思ったのか、根っからのケチで5千円しか包まなかったのか、いずれにせよ、その程度のものと見極めての5千円と思われる。
逮捕された男女は容疑を否認しているようである。これを詐欺というなら、テレビ、新聞・雑誌の健康食品、化粧品などの誇大広告はもっとタチの悪い詐欺ではないか、そう言いたげである。
 
 肉親に重い病人がいたり、家出したまま帰ってこない子がいたり、そういう相手の弱みにつけ込んで、法外な価格で壺を売りつける宗教法人のほうが悪質だと私も思う。有栖川のニセ夫婦はそういった弱みにつけ込みはしなかった、身分への憧れや虚栄心につけ込んだだけの話だ。詐欺としても、詐欺のなかでは悪質さが薄いようにも思うのである。
 
 つけ込まれた方も、なに、授業料が安くついてよかった、そう思っているのではないだろうか。ただ、テレビの取材だけは御免蒙りたいと思っている人は多かろう。400人近い臨席者のひとりとしても、おめでたい奴と失笑されるのは避けたかろうから。なににせよ有栖川のふたり、近年にない恰好のメディア・ネタを提供し、メディアは大喜びである。

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