3   贈り物
更新日時:
2005/06/13(月)
 
 気は心というが、人がよろこぶ贈り物を選ぶのはむずかしい。若いうちなら、好きな人からもらったものは何でもうれしいものであるが、ある程度の年齢になって、ものをもらい慣れている人に対するモノ選びは大袈裟にいえば神経がすりへるほどである。神経を使うのはもらい慣れている人だけではない、やたらと値段を知りたがる人、もらって当然という顔をする人、さらには迷惑顔をする人も疲れる。
 
 もらってうれしいのは高価なものではなく心のこもったものというが、その「心のこもったもの」が何かがわかりにくいし、心をこめたつもりでも相手につたわらない場合もあって、心がかならずしも届くとはかぎらない。そんなことをくだくだいっていたら、何もしないのがいちばんというぐあいになるので、贈り物選びのコツ‥ほんとうにコツかどうかはご自身でご判断ください‥を記すことといたします。
 
 まずは自分がほしいと思わないモノを贈るべからず。自分がほしいと思わないなら、たいていの人もほしいとは思わないだろう。色や柄のこともそうだが、材質の感触や具合、風味や風情など、あきらかに粗雑な、あるいは野卑なモノを贈るのは御法度。趣味がわるいですめばよいが、贈った人の品性まで疑われることもあるから。
 
 また、流行に左右されるモノはできれば避けたほうがよい。いまは花でも、1年もしないうちにゴミと化すので。毎年同じ人に同じ食べ物を贈るというのなら話は別。いまが時期の北海道産アスパラガス、山形産佐藤錦(サクランボ)、これから出てくる甲州産巨峰、岡山産白桃などは喜んでもらえる。
もっとも、言うはやすし行うは難しで、上記のモノはそれなりに高価ゆえ、贈るときは段ボール一箱ではなく、かわいらしい箱で数個、数房を。もらう人もそのほうが気兼ねなくもらえる。
 
 それにだいいち、たくさん贈ったからといって喜ばれると思うのは早急というもので、佐藤錦にしろ白桃にしろ日持ちしない。夫婦二人とか、子供も合わせて三人とかいう家庭に白桃15個あげても、喜んだ顔はたちまち困惑顔にかわる。いくら好きでも、白桃を毎日一人3個づつ食べるのは剣呑というか、もったいないと思うのだ。だからといって、お隣ご近所におすそ分けするのはもっともったいない。
 
 さて、贈り物をするときに問題になるのは予算。金に糸目はつけないというような贈り物は成金や成り上がりに任せて、私たちは金に糸目をつけて贈り物を選ぶ。若かったころの私は、予算を決めたら、予算内でおさまる高価なものを選んだ。予算が5千円なら、一本250円のバラを20本とか、2千5百円のハンカチまたは靴下を二つとか。(昨今、高価なバラは1本500円以上するかもしれませんが、当時1本250円は高価だった)
 
 もう12,3年前になるだろうか、なんともぐあいのいいコウモリ傘を買った。傘は英国製がよい。骨組みの造作が丈夫にできて長持ちするが、柄の部分が大きいので持ち歩いていると手が疲れるのが難。その点、日本製のできのよい傘は柄がこぶりで手にしっくりくる。長時間さしていても一体感があって、手になじむから疲れない。
 
 安価な中国製の傘もあるが、これは買わないほうがよい。素材だけでなく作りがデタラメ、骨はフニャフニャ、すぐ曲がる。曲がれば二度と元にもどらない。そういうまがい物の傘は贈り物にすべきではない。男に贈るなら、傘も選択肢のひとつに加えてもよいと私は思っている。
 
 色は黒で無地または目立たぬ地模様。柄は木、ワンタッチではなく手動の、軽くはあるがしっかりした国産物。1万円出せば(それ以上出しても傘の作りは変わらない)十分に満足のいく傘が手に入る。衣料雑貨を選ぶのはたいへんであるが、傘ならすぐ見つかる。一度いかがですか、男性への贈り物として。



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