15   水持ちと身持ち
更新日時:
2004/08/13(金)
 
 今夏の異様なまでに長い猛暑でつくづく思い知らされたのは水持ちが悪くなったということである。
私はつい最近まで暑さに強かった。20代から50代半ばを越えた現在にいたるまで夏バテ知らずの夏をすごしてきた。夏は大汗をかくからどうのこうのという愚痴をこぼしたこともなかった。
大汗おおいにけっこう、そのほうが冷えたビールやワインもうまいというものである。とはいっても私は、汗をかくのがもったいないからというわけではなく、夏に大汗をかくことはほとんどなかった。
 
 汗かきはバテやすい。大量の汗をかいて水分が不足すると身体のバランスをそこなうというし、体内の血液をドロドロにするという。
1980年代半ばから90年代初頭の数年間、東奔西走の多忙な日々をおくっていたある日、札幌の仮住まいから外出しようとした私は、玄関先で靴をはこうとかがんだとき、突然はげしいめまいに襲われ(天井も壁もグラグラ回っていた)、その場にヘナヘナと倒れて動けなくなった。
 
 その日は大事をとって安静にしていたが、翌朝市内の脳神経外科の検査を受けた。CTスキャナほかの画像精査からは異常はみられないとのことだったが、採血した血液がドロドロで、そういう状態がつづくと脳梗塞や血栓のおそれもあるとの診断であった。結局その医者のみたては当たらずしも遠からずといったところで、正確なみたては「一過性脳虚血症」ということだった。
 
 私たち人間も植物も老化とともに保水能力にガタがくる。「水持ちがよい」というのは細胞とか肉体が若いということであり、逆に「水持ちがわるくなる」のは老化現象といってよい。みずみずしいのは若さの特長であり、若い肉体は水分が豊富ではちきれんばかりである。
若い人と若くない人との相違はひとえに体内の水分の量の違いといっても大過あるまい。水量の差の原因となるのが保水性なのであってみれば、水持ちのよさは勲章なのである。水持ちがわるいと肌も乾燥し小ジワも増える。そして、若年層と中高年とでは汗のかき方にも差があって、中高年は水持ちがよくないので汗も多くかくのである。
 
 さて、身持ちがわるいというのは往々にして女性に冠せられる言葉であり、水持ちとは何の関連性もなさそうにみえるが、実は体内の水分と密接に関係しているのではないかというのが卑見なのである。ありていにいって、体液が豊富で保水能力に長けた女性は身持ちがよくないと私は思っている。
それはまさにある種の生理なのであり、下半身のなせるわざといっても過言ではなく、肉のざわめきとでもいうべき何かであろう。水持ちがよいと、余分な水を体外に排出してもなお余りある水分を体内に貯えられる、あるいは、水分を保ち肉体は潤っている。
 
 身持ちがよいというのは、肉体は余分な体液を排出したがっているにもかかわらず、肉体のご乱行をたしなめることによって体液の量を適正に保つ機能がはたらいていることをいうのではないだろうか。
若いときは使っても使っても保水力は衰えないから使いがいもあるが、中高年ともなると著しく衰える。
水持ちがわるくなっているのに身持ちがわるいと、肉体は悲鳴をあげるのである。
 
 「枯れる」というのはまさしく水持ちのわるくなった人間のなれの果てであり、枯れれば身持ちもよくならざるをえないだろう。枯れてなお身持ちのわるいのは自然の摂理に反して醜悪である。しかし、三十させごろ、四十しざかり、五十ござかき、女は灰になるまで、ということもあるから桑原々々。
熱中症も脱水症も、脳梗塞も脳血栓もノー・サンキューゆえ、せいぜい水分を補給して快適な晩夏を過ごしたいものであります。



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