第十四話

渓で遭遇した不思議な動物 『ニホンカワネズミ』

流釣りをライフワークの一つとしている:釣り人にとって、10月になると何となく気落ちがしてならない。 何故ならば殆ど全国の河川が一斉に禁漁となるからである。 釣具や渓流靴の手入れをしていても来年3月の解禁までの長期間が待てないのである。 少し伸ばした竿を狭い部屋で振っていても家族の失笑を買うだけのものである。 そうだ!放流釣り場で腕を磨こう???

今からおよそ十数年程前、一般河川が禁漁となった晩秋のとある日に安曇川の支流である久多川の放流釣り場へ出掛けた。 久多川の放流釣り場は滋賀県ではなく、れっきとした京都府左京区であるが、現在はどうやら営業されていないようであるが・・・ 

渓流つりは、本来釣り人の気配を抹殺して木化け、石化けが原則の釣りである。 しかしながら貴奴が釣り人を無視して釣り場へやって来ると殆ど釣りにはならないのである。 その日も放流直後の入れ食い騒ぎが収まり、やっと魚たちが落ち着いた所でこれからじっくりと釣り上げようとしていた。 あまごは石で仕切られた渓のあちこちに二匹、三匹と群れ泳いでいるのが見えている状態である。 その所へ繰り返しイクラを流すのであるが、突然下流の石の間より銀色の大きな固体が水中を走った。 おや??? 大岩魚でも来たのか? と思ったがよく見ると、鮮やかなオレンジ色の大きな手足と長い尻尾が付いているではないか? よく観察してみたらどう見てもネズミそのものである。 今迄、ネズミは水を怖がるものであると思い込んでいた私を唖然とさせた出来ことである。 又、あの流れを水かきも無いネズミがどうしてあんなに早く前進できるのか不思議でならないのである。 川底の石を蹴って進んでいるのだろうかと・・・。 その後は貴奴が表れたお陰て驚いたアマゴたちは仕切り石の間にに身を隠してしまい、一匹も姿が見えないし全く釣れないのである。貴奴は三回ほど渓の仕切りの中を往復した後、何処と無く姿を消してしまった。  

その後、この放流釣り場に数回訪れたが二、三回は貴奴出てきてつりの邪魔をしてくれたものである。 その後文献等で調べたところ日本の絶滅の恐れのある野生生物であり『レッドデーターブック』に記載されている カワネズミであることが分かったが、そのころは釣り場にはカメラを持って行っていなく撮影はしていないのがとても残念です。

渓流フィッシング NO13(山と渓谷社)1990.12に記載されているカワネズミの写真は非常に貴重であり、中川雄三氏が文中に述べられているが、この写真は数ヶ月間に及ぶ夜間撮影によつてやっと得られたとのことである。 興味ある方は必見されたし

世界大百科事典  (C) 1998-2000 Hitachi Systems & Services, Ltd. All rights reserved. より転載

カワネズミ Himalayan water shrew‖Chimarrogale platycephara(=himalayica)

食虫目トガリネズミ科の哺乳類。トガリネズミに似るが,体がずっと大きく水中生活に適応している。本州,四国,九州のほか,中国,ミャンマー,ヒマラヤに分布する。体長8〜10cm,尾長8〜9cm。体色は背側が褐色を帯びたスレート色,腹側は灰白色。ただし,水に入って泳ぐ姿は毛の間に空気を蓄えているため光を反射して銀色に見える。目はごく小さい。小さな耳は毛に隠れて見えないが,水に潜った際に耳の穴をふさぐ働きがある。手足の指の縁には剛毛が並んではえていて,水かきの代用をする。山中の水の澄んだ渓流にすみ,水に入って流れに乗って泳ぎながら小魚,水生昆虫,ザリガニ,ヒルなどを捕食する。マスやコイなどの養魚場にすみつき,飼われている魚を食べることもある。巣は川岸の石の下などの空所に落葉などの巣材を集めてつくり,4〜6月に3〜5子産む。おもに夜間活動する夜行性と思われるが,昼間釣人や登山者の目に触れることもしばしばである。                      今泉 吉晴



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あすなろつぶやき

京都大学所蔵 『Fauna Japonica. Mammalia ; Reptilia』 [096/329]より転載


参考文献

ネズミが何故水中生活が出来るか ネズミと呼ばれているが種としては、むしろモグラに近い哺乳類でモグラ目トガリネズミ科である。 耳は小さく毛に隠れて見えないが水に潜った祭耳の穴をふさぐ働きがある。手足の指の縁には水かき代わりの剛毛が生えている。
何故冬期の冷水でも泳げるか? 潜っている姿が銀色に見えるのは毛の間に空気を多く蓄えているいるためであるが、この空気層が体温低下を防ぐ断熱層となる。
何故絶滅種なのか? 昔は日本の至るところで見られ、そこそこの渓流釣り人はよく遭遇していたが、最近は捕獲、写真撮影等による確実な記録が無い。これはきれいな水の山地渓流のみに生息する為である。如何に清流が減少したかのバロメーターである。
カワネズミ ニホンカワネズミはアジア各地に生息しているカワネズミの亜種とされている。

参考図

第十五話 石の上の気になるフン