2003.2.2

散歩の関所


普段は犬に吠えられようが、見向きもしない沙羅なのであるが、

犬の少し甲高い「キャン!」という声にはなぜか反応してしまう。
自分がいじめられている気分になるのだろうか?
それとも「弱い者いじめはやめろ!。」と抗議しているつもりなのか
いつもは大人しい沙羅がやたらと興奮して吠える

散歩の途中に通る家で、
道路に面したひとつの犬舎に犬が何匹か入れられているところがある。
そして

沙羅が通るたびにその犬達がワンワン吠える。

そこの犬舎では一匹の犬がワンワン騒ぐと、小さな犬が踏みつけになるのか
必ず「キャウン!」という声がする。

そうすると、沙羅は自分を見失うくらいに興奮して
手が付けられなくなるのだ。

背中の毛を逆立て、ワンワンと吠えながら
その犬舎に向かってぐいぐい突進していく。

最初のうちは私がいつものように、ぼーっとしていたので、
沙羅のそのいきなりの興奮の勢いに太刀打ちできず、
引っ張られるままにずるずると、その犬舎の前まで引きずられた。

自転車で散歩の時は、いきなり引っ張られて転けてしまったほどだ。


なんとか叱って止めさせようとするのだが、
どうしようもない。

おやつを見せながら気を引いても効果なし。


そのうち、そこを通ることを考えると、散歩に行くのも
おっくうになってきた。

歩いて行く時は、そこを通らなくてもいいように
わざわざ遠回りして別の道を行った。

どうしても通らないといけないときは、車で行く。

車で通っても沙羅は興奮してワンワン喚くので
そこを通るときだけ窓をぴったりと閉めて通り過ぎる。


ずっとそうやってやり過ごしてきた。


でも

このままでいいのか?


この先、
もしかして、私以外の人が沙羅を散歩に連れて行くことが
絶対にないとは言い切れない。

私の家族が、あるいは友達が、
知らずに沙羅を連れてそこを通ったら
引っ張られて大けがをしてしまうかもしれない。


やはり
矯正しなくては・・・


そして、

沙羅と私の訓練は人知れず始まった。


まず、そこを通って沙羅が興奮する気配を見せたら、
沙羅に「アトヘ」と命令する。

ワンワン吠えだしたら、
強い口調で「スワレ!」と命じ、ショックを入れ、
沙羅を無理矢理座らせる。

相手の犬はいつまででもワンワン吠え続ける。

幸いなことに
犬のメンバーは替わっていて、
前に沙羅に吠えかかっていた犬は、大人になったせいか、
それとも沙羅を相手にならないと認めたのか、
今ではもう吠えず、

踏みつけられて「キャン」と啼いていた犬も見あたらない。

今は、新しく入った犬が吠えるのみだ。

座っている沙羅をなでながら、
「ほら落ち着いて。もう大丈夫やろ?」
と話しかける。

沙羅の興奮は少しずつ収まる。

けれど、
あまりにも今まで避け続けていたせいか、
沙羅をこわがらせたままでいたせいか、

沙羅が平気で通り過ぎれるようになるには
かなりの時間がかかると思われた。

根気よくやっていこう。

私はそう決心して、

毎日沙羅とそこを通った。

相手の犬が吠えても、沙羅は平静でいられるように・・・


ところが、

いつものようにそこを通りかかったとき、
興奮した沙羅を座らせて話しかけていると、
その家の人が出てきてこう言った。

「悪いけど、そこにいてもうたら、
うちの犬が吠えるの止めへんから、
もうちょっと向こうで、やってんか。」


「は・はい」

私はあわてて沙羅ともう少し先へ移動したが、
移動した先は、
道路が狭くなっていて、朝の通勤時間帯に
犬を座らせて話しかけるには、不適当な場所であった。


いつもこんな時、
私は相手に何か言い返したいのだが、
何を言い返していいのか整理がつかず、
悶々とした思いで帰ってくる。


「そっちの犬が吠えるから沙羅が吠えるんやんか!」

「私は自分の犬をしつけてるんやから、そっちもそっちの犬をしつけたら?」


頭の中に浮かぶ言葉は、どれもこれも相手を怒らせてしまうであろう
言葉ばかりで・・・
だから私は言葉を飲み込む。

みんなが「私の敵」のように思えてしまう瞬間だ。



沙羅との散歩でいろんな人に会うが、
同じように犬を飼っていても人それぞれ考え方が違う。

いつもにっこり挨拶を返してくれる人。

こっちから挨拶をしてもいつも無視する人。


犬を見ると興奮して吠える犬を連れている人は、
いかにも迷惑だというように、私と沙羅を見る。


私は最初、それがわからなかった。


沙羅がフレンドリーな犬なので、
私と沙羅はいつものんびりと、
季節の匂いを沙羅と一緒に楽しみながら、
歩いている。

沙羅が一生懸命、何か匂いを嗅いでいるので
立ち止まりでもしようものなら、
「はよ 行けや!」とどなられる。

おばさんにも怒られたことがあった。
「さっさと通ってんか!」


こんな時、あっけらかんとして
「こわいおばはんやなあ・・・沙羅 はよ行こ!
ああこわ こわいこわい」

などと、大阪のおばさん(失礼!)のようにでっかい声で、
言ってしまえたらどんなに楽になるだろう。


それから私は少しかしこくなり、
向こうから犬連れが来るのが見えると、あの犬は吠えるのか
吠えないのか、よその犬が好きか嫌いかを
判断する。

それは、犬を見るというより、飼主の態度でわかる。


そして、

「やばい」

と判断したら、
沙羅を連れて違う道を行くか、道の脇にスペースがあるところで
立ち止まって、相手が通り過ぎるのを待つ。


フレンドリーな犬&飼主なら、もちろん沙羅も挨拶させる。


挨拶していつも無視されていたら、そのうちこっちでも
「挨拶なんかしてやるもんか」と思ってしまう。



話を戻すが、

沙羅はまだその「関所」をクリアできないでいる。

家の人に注意されてからは、
沙羅に話しかける私の声もトーンが低くなり、
ひそひそ声で
「はよ、いこ」
と、沙羅をせかせる。


うちの犬だけじゃなく、よその犬まで吠えないように
気を遣わなくてはいけないということか・・・

今度、
ジャーキーを持っていって、手なずけてしまおうか

もちろん家の人に見つからないように・・・