2003.2.14

マイホーム・続編

家の補修工事が始まった。
まず、第一日目はお風呂の浴槽を取り出して、下を平らにする工事。

朝、9時過ぎに工務店の人と職人さんがやってきた。

「基礎のコンクリートを塗る職人さん」と、
「タイルを張る職人さん」とは別々らしい。
(「左官屋さん」と呼ばれる人はどっちだろう?
左官屋さんは「壁を塗る人」というイメージだから
やっぱり「タイルの人」だろうか)

沙羅は大喜びで挨拶をしようとする。

工務店の人は初対面ではないので、沙羅に軽く声を掛けて通り過ぎる。
続く職人さんは、こわごわだ。

容赦なく飛び付こうとする沙羅を必死で押さえながら、挨拶を交わす。

ひとまず、二階へ避難避難。

普段は開けっ放しのドアが、こんな時だけ登場する。

沙羅はお客さんと遊びたくて遊びたくて、ドアの前へ行って
ワンっ!
と吠えては私に怒られる。


ベランダに続く二階のこの部屋は、うちで一番 明るく眺めのいい部屋だ。

二人掛けのソファが置いてあり、沙羅は夜 たいていここで寝ている。

床には沙羅のおしっこシートが敷いてあって、この部屋は
沙羅のトイレでもある。

要するに、この部屋は「沙羅の部屋」なのであるが、
どこへも出かけない、お天気のいい日は、
まず、毛だらけのソファカバーを取り替えて、

この部屋に本やギターやパソコンを持ち込んで、
田圃と青空を眺めながら一日を過ごす。

眠たくなるとソファに横になってウトウト・・・
沙羅は私にソファを占領されて、しぶしぶ床でウトウト・・・

至福の時間だ。


そうは言っても、家の中を他人がウロウロしているのは
沙羅と一緒で、なんとなく落ち着かない。


お昼からは、たのんであった本棚と食器棚が届くので、
沙羅のお守りは、していられない

「わーいお出かけ?お出かけ?」と
嬉しそうな沙羅を外に連れ出し、
そして、車に乗せ、「待っててな。」と言って
もどってくる。

いそいで今の本棚と食器棚の中身を
取り出し、この際だからとあちこち掃除を始める。

沙羅はお出かけできるのを今か今かと期待しながら
夕方まで車で待つことになる。


玄関のドアが直った。

今までは、グイッと持ち上げて開け、
持ち上げないと閉まらなかったドアが、
手を放すだけで勝手にバタンと閉まるようになった。

すごいっ!
マンションのドアみたいだ。

でもこれで泥棒も入りやすくなったわけだ・・・
これからは鍵をちゃんと締めないと・・・


お風呂の方は、浴槽を取り出してみたら、
すごい粗悪な工事がしてあったらしい。
そのためお風呂の水を抜くたびに、
地面に水がしみ込んでしまっていたのだそうだ。
そりゃ地盤も沈下するはずだわ。
もっと早く直しておけばよかった・・・

今日の工事はここで終わり。

コンクリートが固まらないとタイルが張れないそうで、
一日置かないとだめなのだが、あさっては日曜日だから
タイル張りは月曜日で、タイルを張ってからまた一日
置かないとお風呂に入れないそうだ。

そして、私は、
4日間の「お風呂絶ち」を強いられることになる。

1日2日はなんとか耐えられるが、
4日間はちと辛い。

頭も痒くなってくる。

夏じゃないからまだましだけど・・・


3日目で我慢の限界を迎えた。


日曜日の夕方に、近くにできた「スーパー銭湯」に行くことにする。


いつも「内湯」に慣れているので、銭湯は苦手なのであるが、
やむを得ないであろう。

沙羅を車に待たせ、
「千円札」一枚だけポケットに入れて
いざ出陣!

この前、お正月に友達と「瑠璃渓温泉」に行った時は
700円でタオルもみんな貸してくれたので、千円は余裕の金額だと思われた。


初めてのことって、やっぱりうろたえる。

まず、
靴を下駄箱に入れ、100円玉を入れて鍵を掛ける。
(この100円はあとで返ってくるらしい)

それから、食券販売機みたいなところで、チケットを購入。

大人の「入浴券」を一枚買う。
700円なり。

ところが、
そこに張ってある注意書きを読んでみると
タオルを借りるには別に料金がいるらしい。

私は手に200円と入浴券を握りしめ、
受付へ向かった。

「タオルを借りるのは、いくら要るんですか?」


受付には若い女の人が二人いて、
「会員様ですか?そうでなかったらバスタオルは130円。
フェイスタオルは買い取りで120円です。」

と言われた。

合わせて250円だ。

足りない・・・


どうしよう・・・


そうだ、靴箱に入れた100円を取ってこよう


私は靴箱に鍵を差し込み、返ってきた100円玉を取り、
靴はそのままにしてまた受付へもどった。
こんな汚い靴、誰も盗らないだろう・・・


受付に「入浴チケット」と300円を差し出し、
「バスタオルとフェイスタオルをお願いします。」と言うと、

「それならチケットをお買い求めください。」
と言われる。

なんだか若いおねーさんに
バカにされたような気分になりながら、素直に券売機へ・・・


なんと、

あるわ。あるわ。

「リンス券」・「ひげそり券」・「歯磨きセット券」・「シャンプーハット券」・・・

ざっと見ただけで30コ位のボタンが並んでいる。

その中からようやく「バスタオル貸し出し券」と
「フェイスタオル券」のボタンを見つけ出し買い求めると、
三たび、受付へ・・・

3枚のチケットを差し出すと、女の人は快く「バスタオル」と
「フェイスタオル」を渡してくれた。

はあ やっと、お風呂に入れる。

と思った瞬間

「靴箱のキーをお願いします。」

と言われてしまった。

えっ?

靴箱のキー?

さっき100円欲しさに靴箱に差してきてしまった
そのキーを この人は出せと言うのか?



「あの・・・靴を靴箱にしまわなかったので・・・」

私のかわいそうな言い訳に、
女の人は
「困ります。脱衣所のキーは靴箱のキーが無いとお渡しできません。」
と、きっぱりと言う。


・・・・・・

「わかりました・・・車にもどって取ってきます・・・」

私は50円玉を握りしめ、
すごすごと引き下がった。


なんでやねん!

なんでやねん!

千円札一枚じゃ風呂にも入れへんのんか!



沙羅の待つ車のドアを開け、財布から100円を取り出し、
1000円じゃ足りひんのやって!
とぶつぶつ沙羅に言いながら、
再び入り口へ向かう。


この怒りは、やがて


洗ってやる!
落としてやる!

こうなったらとことん垢を落としてやるぞー!


という思いに変って行くのであった。


靴箱に靴を入れ、100円を入れて、キーを持って
受付へ行き、やっと、やっと

脱衣所のキーを受け取る。


風呂場への階段を登り、
「女湯」と書かれたのれんをくぐり、
自分のキーに書かれた番号のロッカーを捜す。

この辺は瑠璃渓温泉で覚えた手際の良さだ。

さあっ

ぱっ!

ぱっ!

ぱっ!

と着ている物を脱ぎ捨てて、

風呂だ風呂だあっ!!!

洗うぞ。洗うぞーっ!


意気込んだ私は、すぐに洗い場に座り込み、
脇目もふらずに身体の隅々まで綿密に、しつこく洗い出した。

もちろんシャンプーも2回する。

ふうっ

そして湯船へ・・・

全身さっぱりした私は怒りも少し収まり、
恥ずかしげに前も隠しながら、浴場を見渡す。

「日替わりの湯」

「ジェットバス」

「回遊風呂」

「リラックス風呂」

いろんなお風呂がいっぱいあった。

その中で、「リラックス風呂」というのに目がとまり、
そこに入ることにした。

湯船にすっぽりと収まって、頭を湯船のへりに預ける。

ふうっ

ああ・・・

いいきもち〜


十分にあったまり、リラックスもして、
お風呂を出ることにした。

服を着て洗面所のドライヤーで髪を乾かす。

無料のドライヤーは4つしかなくて、
あとは有料の「イオンドライヤー」とかいうのが
備え付けてあった。
5分100円らしい。

当然そのドライヤーは誰も使っていなかったが、
使う人などいるのだろうか・・・・?


私の隣にはドライヤーが空くのを待っている人がいる。

普段の私なら、待っていられると、あせって乾きもそこそこに
次の人に明け渡してしまうのだが、
今日は違っていた。

なにせ
950円も払っているのである。

徹底的に乾かすぞ!

待っている人をわざと見ないようにして続ける。

ぶ〜ん・・・



待っている人も だいたい「次はどこが空くのか」が
わかるのだろう。

私の横でひたすら待っている。

ついに

根負けして

ドライヤーをもとにもどす。

すかさず「使っていいですか?」と聞かれる。

「どうぞぉ」とにっこり笑って答える。
なんだか良いことをした気分だ。


はあっ

さっぱりしたあっ


車に待っている沙羅に何度も感想を述べながら
帰途につく。


その日は身体も暖まってぬくぬくと眠りにつくことができた。


日曜日が挟まったため
4日目がタイル貼り

その日も二階で、沙羅と大人しく過ごす。

沙羅は下に行ってお客さんに挨拶したくて
うずうずしている。

それをなんとかなだめながら1日を過ごし、
いよいよ明日から・・・

と、思っていたら、

「明日は無理みたいや。お風呂はあさってまで我慢してや。」
と言われる。

がが〜あん!

仕方がない。

もうスーパー銭湯に行くのもいやだし、
あと1日くらい我慢すっか


お風呂のことは考えないようにして
晩ごはんの後、できるだけファンヒーターの前であたたまり、
そのまま布団へなだれ込む。



そして、そして、


いよいよ

お風呂に入れる日がやってきたっ
6日ぶりの我が家のお風呂である。


さぞかしゆっくりとお風呂に入れたと
お思いでしょう?


しかし

実際には、一カ所がきれいになったら、
妙に他のところが気になり、
お風呂に入りながらブラシで気になるところをゴシゴシこすり、
あげくの果てに、真っ裸でお風呂の壁を掃除してしまう羽目に、
なってしまうのである。


まる