2003.2.27

ありがとうゴエモン


ゴエモンと出会って17年
ネコの17歳を人間の歳に換算すると
80才くらいだろうか

この頃動作もすっかり鈍くなって、
治っていたはずの「ネコ風邪」も再発したらしい。
右の目にいつも目ヤニをくっつけている。

そろそろかな

私はひっそりと覚悟を始めていた。

そして

それは、ある日突然やってきた。


いつものように仕事から帰ると、ニャー!と
ごはんの催促。

空になったエサ入れに、キャットフードを入れてやる。

ガツガツといつものようにごはんを食べるのを見届けて、
沙羅の散歩に出かけ、帰ってくると
ゴエモンが玄関まで迎えに来た。

いつものことだ。



沙羅が我が家に来るまでは、
ゴエモンは私を独り占めにしていたから、
沙羅を私に取られてさびしい思いをしていたのだろう。

私が沙羅とベタベタとじゃれ合っていると、
最初は恨めしそうに向こうの方で見ていたが、
そのうちゴエモンは「ゴエモンの地位」を
沙羅の上に獲得し、
最近では沙羅と私の間に、割って入るようになっていた。

沙羅におやつをあげると、ゴエモンが顔を突っ込んでくる。
パンなんて今まで見向きもしなかったのに、
無理して食べようとしたりして・・・

家にいると、いつもゴエモンが私の膝に乗ってくるので、
仕方なしに片手でゴエモンを撫でながら、
もう一方の手で沙羅の相手をすることになる。
 



そして、その日、

散歩から帰ってきた私が、二階で洗濯物を片付けていると、
階下から変な声が聞こえてきた。
「ウー  ウー ウー・・・」という、うめくような声だった。

私はてっきり、沙羅がないているのだと思った。
沙羅は相手にしてもらえないときや、おやつがワゴンの下に
入って取れないときなんかに「クンクン」と鳴くから・・

「沙羅何言うとるの?」

と言いながら、下に降りてくると、
玄関に続く廊下のところで、
ゴエモンが横になり、前足をつっぱり
ヒクヒクと痙攣しているところだった。




・・・・・




こんな時

私は声が出ない。


・・・・


「ゴエモン?」



来るべき時が来たんだ。


そう思いながらも
もしかしたら、のどに何か詰まっているのかも
しれないと思い、
ゴエモンの脇をかかえ、
頭を下にしてブンブンと揺さぶってみた。


・・・


反応なし


だめらしい・・・



そっと胸に触れてみる。
心臓はまだ動いているような気がしたが、
ゴエモンの鼻や口に私のほっぺたを近づけて、
息をしていないのを確認する。




そして、
ゴエモンを静かに見送る。


「ゴエモン。長いこと、ありがとうな・・・」

まだ暖かい身体をそっと撫でながら
何度も何度も「ありがとう」を言う。


みやちゃんも沙羅もゴエモンの様子を見に来たので、
「ゴエモン・・・死んだなあ」
と話しかける。


目頭はじーんとしていたが、不思議に涙は出なかった。


ゴエモンのあとばっかりくっついて回っていたみやちゃんに、
ちゃんとゴエモンの死を受け止めて欲しくて・・・
ゴエモンを探し回ったりしないように・・・


ゴエモンの死体をゴエモンが好きだったカゴの中に入れ、
しばらくそばに置いておくことにした。

ゴエモンはいつも私のそばに居たかったんだよね


最初はゴエモンの様子を見に来ていたみやちゃんも
そのうち見に来なくなった。

沙羅は最初からおかまいなしだ。



「動物も人間も死んでしもたら終わりやで」
「死体はただのモノになってしまうんや」
「だからこそ、生きてるときに精一杯かわいがって
やらなくちゃ!」

日頃から、私はみんなにそんなことを言っていた。

セキセイインコのピースケが死んだときも
最初はその亡骸を箱に入れて置いていたが、
そのうちそれを見てもなんとも思わなくなり、
結局ゴミと一緒に出してしまったのだ。

その話をすると、みんなに責められる。
なんて残酷な!


けれど、ピースケもゴエモンももう
そこには居ないのだ。
身体から抜け出し、空気のような存在になって、
いつも私のまわりにいて、
そして見守ってくれている。

私にはそれがわかるのだ。

だから、

ゴエモンの死体も
保健所の人に取りに来てもらうことにした。

「飼主のいないネコは無料ですが、
飼っていたネコは4600円頂きます。」
と保健所の人は言った。

「いいですよ」
(なんぼなんでもそこまでケチりたくはない。)


道ばたで死んでしまった野良猫たちと一緒に
ゴエモンも焼かれるのだろう。
そのことについて、別にゴエモンを
特別に扱って欲しいとは思わない。

「野良猫」も「家猫」もみんなおんなじ「ネコ」だから・・・



ゴエモンの死体を車に乗せ、会社へ連れて行って
会社の方へ取りに来てもらった。



そうやってゴエモンは逝ってしまった。


ゴエモンが見えない存在になって、
みやちゃんがすごく私に甘えてくるようになった。
淋しいのだろうけれど、

夜、そっと私の布団に入ってくるとき、
なぜかゴエモンが入ってきたように感じる。

みやちゃんの中にもゴエモンはいるのだろうか?
そして、私に甘え足りなかった分を果たしているのだろうか?


沙羅とみやちゃんがいてくれるから
そんなに淋しい思いをしなくて済んでいるのだが、
やはり、何か物足りない淋しさが、
あとからになってじわじわと湧いてくる。


テレビで見る野生の動物のように
死を自然に受け止められる自分

そんな自分は、まだまだ遠い。


ゴエモンほんとに長い間
ありがとうな!