2002.11.4

お受験物語

クリーニング師の試験を受けることになった。
別に独立してクリーニング店を開こうと言う気もないし、
免許を取ったからと言って、どうと言うことはないが、
「どうする?受けるか?」と聞かれれば、
「はい。やります。」と言ってしまうのが人情だ。
・・・これは私の場合だけかもしれない。

そんなわけで、受験勉強が始まる。

まず、クリーニング組合に受験講習の受講を申し込み、
テキストをもらってくる。

それと、試験の願書。
願書に貼る証明写真を撮りに行く。
プリクラみたいな個室に入り、カーテンを閉め、
鏡を見ながら髪の毛をなでつける。

年取ったなあ・・
ちょっと疲れてるかなあ・・・


「準備ができたらスタートボタンを押してください。」
アナウンスに従って、ボタンを押す。

パシャ!

フラッシュが光って、鏡の中の自分の顔が止まる。

「これでよろしければ現像ボタンを押してください。」

うーん

だめだめ、もう一度。

こういうとき、無理に笑うとかえっておかしい

パシャ!

「よろしければ現像ボタンを・・・」

まだだめ

パシャ!

「現像ボタンを・・・」





う〜ん

しゃあないな
まあいっか


待つこと3分

写真が出来上がる。
なんてことはない、相変わらずのすっぴん顔だ。


「写真」とそれから、「履歴書」に、「卒業証明書」

履歴書を書くなんて、何年ぶりだろう。
小学校。中学校。高校・・・「高校」は「高等学校」か・・・

小学校は、「町立」で、
高等学校は「京都府立」だっけなあ
じゃあ「中学校」は?

???


わからないのでメールで兄に聞いてみる。
兄もいきなり聞かれて、わからない様子だった。

いったい何年に入学して、何年に卒業したのかも
ぜんぜんわからないので、とりあえず卒業証明書から
逆算していくことにする。
つじつまをあわさなくちゃ!

家中、家捜ししてみたけれど、高校の「卒業証書」は見つからなかった。
引っ越しの時に捨ててしまったのだろうか?
こんな時に必要な事があろうとは思わなかったもんなあ

仕方がないので、母校に電話をして聞いてみる。
「証明書は発行できますので、印鑑と本人を確認できるものをお持ちください。」
ということだった。手数料は400円。
うんうん。これは良心的である。

これは母に取りに行ってもらう。

次の日に、向日市に通っている兄が届けてくれた。
いつもお世話になりますm(__)m



願書提出は京都府府庁か、又は京都府下の保健所とある。

これは平日の昼間に行かないといけないので、
ちょうど休みが取れた10月4日に行くことにする
        ・・・おりしもそれは願書締め切りの日であった。

府庁へ行くのは少し遠い。
そこで会社の受験経験者に聞いてみた。
「願書提出は府庁でないとだめなの?」
「いや、保健所やったらどこでもいいはずや。」

それだったらと、一番近い伏見保健所に出向く。
午前中にそれをすませて、昼からは遊ぼうと思っていたので、
10時頃に行くと保健所のおじさんは、
「これは府庁に行かないとだめですね。」と言う。

聞けば「京都府下の保健所」というのは、亀岡とか、
府下の保健所であって、「伏見保健所」は市の保健所なのだそうだ。

う〜む

やっぱり府庁か


仕方がないので市内を北上する。

今からだとちょうどお昼にかかる。
役所というところは、12時から1時までは、「絶対お昼休み」
なのだ。

府庁近くの京都御所で1時になるまで少し時間を潰す。

沙羅はうれしそうだ。

1時になったので車に沙羅を待たせて、
歩いて願書提出に行く。

7000円の証紙を買って願書に貼る。
世の中なんでもお金がかかる。
受講料が12000円だったので、ここまでで19000円かかったことになる。
(証明書の400円は母が出してくれたm(__)m)

受付のおねえさんは、とってもやさしい人だった。

締め切り最終日であったのにも関わらず、受験番号は「14番」であった。


さあ いよいよ受験勉強だ。

試験内容は
筆記試験が「衛生法規」と「公衆衛生」と「洗濯に関する知識」の3科目
それと実技試験に「繊維の見分け」と「アイロン掛け」がある

毎日少しずつテキストを読む。

「法律、法規、細則・・・・zzz・・・」
5行くらい読んだところですぐに眠たくなる。

社会科は私の大の苦手科目だ
(ん?法律は社会科だったかな?)



講習は10月6日(日)・9時から4時まで。
お昼付きだ。
さすが12000円払っただけのことはある。

お昼休みには、実技のアイロン掛けのビデオを
見せてもらう。
まるで「板前さん」といった感じのおじさんが
すばらしい手さばきで、説明をしながら
Yシャツにアイロンを掛けていく。

試験で使われるアイロンというのは、業務用の電気アイロン
(別名「焼きアイロン」と言うらしい)
すんごく重たくて、温度調節も自動ではなく、
自分でレバーを調節しなければならないのだ。

私の会社で使っているアイロンは、「スチームアイロン」で、
家庭用のアイロンよりは重いけれど、温度調節が要らないし、
焦げる心配もない。

この「焼きアイロン」は手に水をつけてアイロンの表面を一瞬触り、
水がはじく「チュンっ!」という音で温度を確かめる。
なんちゅう原始的。

Yシャツはあらかじめ霧吹きで水をかけ、湿らせて置く。

袖を掛け、カフスの内側を掛け、表から掛け、袖口のタックを取り、
前立てを掛け、エリの裏と表を掛け、
背中のタックを取り、ボタンを留めて見頃を掛ける。

乾いていなくてもダメだし、焦がしてももちろん失格。
Yシャツをきっちりとたたんだ後、足袋の片方を仕上げる。

ここまで、制限時間12分!

会社ではアイロンも掛けているので、
12分は余裕の時間であったが、慣れていないアイロンでは少し不安である。

講習の後、少し練習させてもらう。

私がいつも会社でやっているようにやろうとすると、
ビデオに出てきたおっちゃん(なんでもアイロン日本一らしい)が、

「いや いや。 こうしなさい。」
「こっちの方がやりやすいから。」

と、いちいち直される。


今までのやり方が全部間違っていたような気になって、
余計に不安がつのる。


できるのだろうか?

試験直前に、焼きアイロンの練習に行く。アイロン使用料は1回1000円

クリーニング組合のおじさんが、
「落ち着いてはるから大丈夫やと思うけど、
もう少しスピードアップした方がいいね。」と言う。
やり方は別に、こうだという決まりはないそうだ。

それならいちばん慣れている自分のやり方でやろう
と、心に誓う。

そして

あいかわらず、テキストを数ページ読んだら眠くなる日が続き、

10月27日(日)
試験の日がやってきた。


とりあえず、もらった過去の試験問題は一通りやってみたし、
6割できたら合格らしいから、なんとかなるんじゃない?

持ち前の楽天主義で、試験に臨む。

試験は12時半からだったので、
ゆっくりと朝をすごす。
(なんと朝からギターを弾いていた)

車の中でお昼ごはんのパンを囓り、
試験会場へ向かう。今日は沙羅はお留守番だ。

受験者は22人。
若いお兄ちゃんから、おじさんまで・・・
女の人も5人くらいいた。
和気藹々とした雰囲気である。

いろんなところのクリーニング屋さんがいるので、
話を聞いているとおもしろく、緊張はすぐにほどけた。

筆記試験は1時間。3科目30問。
時間はたくさん余ったが、去年よりは確実に難しくなっていた。
迷う問題もあったが、3択問題なので勘に頼ることにする。

そのあと、繊維の鑑別試験。10分間。

絹・綿・毛・麻・レーヨン・アセテート・キュプラ・ナイロンの
8種類の生地の中から選ばれた6枚の生地が配られ、
それぞれに打たれた番号と繊維の種類を回答していく。
まあこれも迷うところはあったが、勘に頼る。

そのあと、休憩を挟み、本日のメイン。実技試験に入る。
4〜5人ずつ、5班に分かれて別室へ移動する。
私は一番最後の班だった。

待つこと約1時間。

「14」と書いたゼッケンを前と後ろに安全ピンで付ける。

終わった人の表情はみんなどことなくこわばっており、
それを見ていると、緊張感は否応でも高まる。


さて

私の番だ。

試験会場に入り、アイロン台につく。

見たことのある試験管がこっちを見ていた。
あっ

「日本一」がいるっ。

それから、講習の時、やたらと講釈をたれてた(失礼!)
おじさんがいる。


「それではアイロンの温度を調節してください。
「できた人から・・・・」


と言う声で手に水をつけて、「チュンっ!」をやってみて、
丸めたYシャツを広げ出した。

あれっ??

あっ!!

「まだですかっ?」




あわてて、広げたYシャツをもう一度丸める。

しまった・・・ 試験管に笑われた



「それでは初めてください。」


それからは無心だった。

人のことなど目もくれず、もくもくとアイロン掛けに
熱中する。
けっこう楽しい。
仕事というのは楽しいものなのかもしれない。
もともと、物を作ったり、畳んだりするのは好きなんだもの。
今は管理する立場へ移り、現場から離れつつあるけれど・・・


そんなことを思いながら
Yシャツは今までで「一番の出来」で仕上がった。
シャキッと糊も効いている。

う〜む。

最高の出来映えだ。

5人の試験管が順番に回ってきて、畳んだYシャツを広げ、
乾いているか、シワはないか、確かめていく。
「日本一」が回ってきた
「上達したな。」小さな独り言が聞こえた。

おっ!!

やった!!


「残り時間3分です。」

ちらっと前を見ると、前の人はもう足袋も終えて、
手を後ろに組んで立っていた。

私もあわてて足袋を仕上げる。

時間はまだあるので、練習では湿りがちだった
足の裏も時間をかけて押さえた。
これもまずまずであった。


どうやら いけそうだ。

緊張のうちに会場を後にすると、
確かな手応えとともに、底知れない「開放感」が
足の方から全身に広がっていった。


わ〜いっ!!

おわった

おわった〜ぁっっ!!!

私はまるでシャンプーのあとの沙羅みたいに、
そこら中を走り回りたくなった。

「じっとして!」と言われて、解放されたあとの沙羅は
きっと、こんな気持ちなのだろう。

もちろんそのまま帰る気にはなれず、
街へ出かけ、欲しかったスピッツの全曲集を手に入れた。



さあ。思いっきりギターを弾くぞっ!遊ぶぞっ!



  


でも考えてみれば朝からギター弾いていたし、そんなに
我慢してたわけじゃないんだけど・・・お