2002.12.9

「犬笛」


通販で「ドッグ・ホイッスル」なるものを買った。

「ドッグ・ホイッスル」。日本語で言うと「犬笛」だ。


昔テレビで放映されていた・・・えっと、「黄金の犬」だったろうか。
「犬笛」を吹いたら、犬が飼い主のところへもどってくる というシーン。

人間には聞こえないが、犬の耳には聞こえるその高周波の音がする「犬笛」

ずっとあこがれていた。


あの日々から、かなり時間は流れているが、

ふと、通販のカタログで「ドッグ・ホイッスル」を見つけた私は、
それを一目見て欲しくなり、すぐさま注文してしまったのである。

人間の耳には聞こえない笛を合図に、犬がもどってくるなんて、
いやはや、カッコイイではないか。


この「ドッグ・ホイッスル」。お値段は3900円。
と、貧乏な私にしてみれば結構な価格である。


先日それが勤務先に届いて、(日頃留守がちな私は、通販の届け先を勤務先にしている)

さっそく包装を開け、試しに吹いてみた。


「フーーーーーっ」

???


「フーーーーーーーっ」

??


何の音も聞こえない。

ただ息が漏れるばかりだ。


笛にはネジがついていて、これを緩めることで「音の周波」を変えられるらしい。

「らしい」というのは、この笛がドイツ製であり、説明書も横文字で書かれているため
何が書いてあるのかよくわからなかったせいである。


ネジを少し緩めて吹いてみると、「フーーーっ」という息の音に混じって、
かすかに「ピーーーーっ」という笛の音がする。




さて、これをどうやって沙羅の「おいで」と結びつけるか?



私はそれを家へ持ち帰り、さっそく沙羅の反応を見てみることにした。



フーーーーーーーっ


沙羅が首をかしげて「おやっ?」というような顔をした。


しかしこれだけでは、「笛の音」に反応しているのか
それとも私のその「笛を吹く動作」に
「かあちゃん なにそれ? 食べるもの?」
などと反応しているのか判断がつかない。

そこでまず、ごはんの前に3回笛を吹いてから「ヨシっ」と言ってみたり、
笛を吹いておやつをやったり、ロープで遊んでやったりして、

「笛の音」と「うれしいこと」を結びつけることにした。


フーーーーっ フーーーーっ  フーーーーーっ!


なぜ3回吹くのかは、別に意味があるわけではない、1回だと聞き逃すかもしれないし、
3回ぐらいが手頃かなと、思っただけだ。


フーーーーっ フーーーーっ  フーーーーーっ!


音の聞こえない笛を一生懸命吹いている自分が、
なんだか滑稽に思える。




そして次の段階へ




沙羅が向こうの部屋や二階にいるときに、笛を吹いてみる。


フーーーーっ  フーーーーっ  フーーーっ




すると、暫くして沙羅がドタドタとやってくるではないか


ううーーーむ

そこで私は沙羅を褒めてやり、おもむろに冷蔵庫を開けて
ペット用チーズを与える。

なかなかいい感じだ。


ただ、沙羅が二階で畳に背中をこすりつけて、
ガウガウと興奮しているときは、下で笛を吹いても反応が無かった。

やはり聞こえていないのか?

犬の耳には、わずかな物音も聞こえるらしいから、
もしかしたら、私のフーーっという息の音と、
かすかな笛の音を聞きつけてやってくるのかもしれない。



この笛はほんとうに、人間の耳には聞こえない高周波の音を出しているのだろうか?



ネコの反応も見てみる。

笛を吹くと、あっちを向いているネコの耳だけが、私の方へ向く。
やはり、なにか聞こえているらしい。
しかしこれも私の息の音に反応しているだけなのではないだろうか?


どうしてもまだ、その人間の耳には聞こえないという「犬笛の音」への
猜疑心を拭えないでいる私である。



このホイッスルには、革製のカバーと同じ革製のひもが付いていて、
ペンダントとして使えるようになっている。



そういえば昔、

テレビをみて「犬笛」にあこがれていた頃、

ちいさな銀色の笛を買ってきて、それに黄色い毛糸のひもを編んで付け、
ペンダントにしていたことを思い出した。

犬の散歩に行く時、首からぶらさげて行ったのだが、
犬と一緒に走ると(小さい頃、犬の散歩はいつも犬に引っ張られて走っていた)
その笛がバンバンと跳ねて胸に当たり、痛かったのを思い出す。

もちろんその笛は「犬笛もどき」であったため
吹けば 
ピーーーーーっ!!と威勢のいい音がした。


そして、その頃その音で犬を呼び戻せたかどうかは、
実のところ、良く覚えていない。
犬は来たり来なかったりしたのかもしれないし、
犬が来ないのは、「この笛がほんものの犬笛ではないからだ」
と思っていたのかもしれない。



今、手元にあるこの「犬笛」

沙羅の耳には、一体どんな風に聞こえているのだろうか?