高野一巳
15 邪悪王の闇の城
ナムルの村は、ほとんど闇に呑まれかけていた。色彩がほとんど死んでしまっている。 弟のロトはほとんど闇に覆われ、虫の息だった。両親もただ、息をしているだけで、闇が体をかなり侵蝕していた。 泣いているひまはない。 ナムルが邪悪王の闇の城の前にたたずむガイたちと合流した。 ガイは深呼吸して、精神を統一して、闘志をみなぎらせ、剣を構えて、闇の城に向かった。 城に近付くと、闇の粒が動いて、何かの形になり始めた。 真黒い巨大な屈強な兵士が、剣を構えて、ガイに向かい合い、立ちふさがった。ガイも構えて相手が打ち込むのを待ったが、向こうも動かない。 こいつを倒さない限り、城へは入れない。こっちから仕掛けるにも、相手に全く隙がない。どうすればいいか、考えあぐねていた。まるで、棋士が互いの手を先の先まで読み合い、駆け引きしているようなものである。長引けば、疲れて不利になる可能性もある。ここはスタミナ勝負となるのか。 一心に念を集中していたユナが、にっこり笑った。 ディーンとユナを真ん中に、両脇にナムルとガイ、彼らは互いに手を握り合って、邪悪の闇の城に向かっていった。 ガイの心の中は、ディーンを、ユナを、ナムルを守ることだけでいっぱいだった。危険が及べば、対応する備え、構えはあったがそれだけだった。もとより、相手を倒そう、殺そうという気はない。 ガイの影は、ともに同じものを守る同志のような感じがしたから、不思議なものだった。 ナムルの心はほとんど、祈りに近いものだった。ディーンを救ってやりたい。家族を救ってやりたい。村の人たちを救ってやりたい。村を救ってやりたい。あの楽しかった日々を取り戻したい。豊穣の神様、何とぞお救いください。ナムルは一心に願った。 ナムルの影は、両手を合わした神様のようなやさしい姿だった。 ユナの心は思いやりでいっぱいだった。ユナはみんなのことを気遣っていた。みんなの心とつながっていたのである。ユナはみんなのことが好きだった。安心して心を開くことができた。 ユナの影はそっくりユナと双子のようだった。同じ動きをする。ユナは自分の影と握手した。 ディーンの影は現れなかった。ディーンの心はしかし、決意にあふれていた。もう逃げない。自分自身に向き合う。 そして、自分はひとりじゃない。そう思うと力がわいてくるのだった。 不安も恐れもまだある。でも、思い切って勇気を出して、一歩踏み出そうとしていた。 そのディーンの行く手を覆っていた闇が、割れてカーテンのように開き、奥に伸びる通路を示した。それはまるで、蜘蛛の糸がからまりあった銀色の道のようだった。 |