邪悪王の闇の城

高野一巳



13 ガイの活躍

ガイは、素早く偵察して、現状を把握した。まだ、十分夜が明けきっていないのが幸いだ。日が昇る前に動いた方がいい。それぞれが反対の方角から、包囲するように、近づいてきている。包囲網がもっと縮む前に間を突っ切った方がよかろう。 ガイは決断し、みんなに指示を与え、すぐに動いた。ユナにもレーダーの役目を担ってもらう。

最初は双方の動きを見ながら、そっと気付かれないように動いた。身を隠しながら、うまく包囲を逃れたと思ったが、見つかってしまった。一気に全速力で、走った。 ナムルとユナ、ガイとディーンの組み合わせで馬にまたがっていた。ユナはまわりの精神エネルギーを感じ取り、ガイは気配を察した。 ユナはガイと精神的にピンポイントでつながり、情報を交換しあった。ユナはナムルとガイとの精神的な連絡係もこなしたのである。2頭の馬はまるで、一体のように動いた。

邪悪王の兵士はスライダーで、国王の兵士は馬で追いかけてくる。 油断はできない。なんとか巻かなければ、すぐに追いつかれてしまうだろう。 山の中だったので、樹木や岩があったり、起伏が激しいので、逃げるのは大変だが、追いかける方にも障害になる。こちらはそれを利用することもできる。

ガイの頭には、主要な地形が叩きこまれているので、自分が都やナムルの村からおよそどのあたりにいるかということを、察することができた。 ほら穴に到着した際に現在の位置を星から割り出し、これから向かうべき方向を確かめておいたのである。 ガイは近くに自分が熟知している区域があることを知り、そこに向かっている。そこで野戦訓練をしたことがあったのだ。そこに入れば、敵を巻ききる自信があった。

しかし、スライダー軍団はすぐそこに迫っていた。最新技術にはやはり馬ではかなわない。ここで迎え討つしかない。 ガイは、ナムルに先に行くように言い、自分はスライダー軍団に対峙する形となった。 ディーンにしっかり捕まっているように言った。スライダーは立ち並ぶ樹木をかいくぐるようにやってくる。 ガイは両手を広げ、気を集中した。両手のひらに気が固まり、ほのかに輝きだす。ガイは集中して次々と気のポールを繰り出した。 それぞれの気のボールは、スライダーに沿うように動き、わずかな動きで方向を変えた。 スライダーは次つぎと樹木に激突し、クラッシュしたスライダーに後続のスライダーがぶつかった。 走行不能のスライダーが折り重なった。それをまぬがれたスライダーも、ガイはそのエンジンをピンポイントで破壊した。すべてのスライダーが不能になったのを見届け、ガイはナムルの後を全力で追った。

スライダーを払うために足を止めている間に国王の兵が追いついてきた。だが、うまい具合にガイの知っている区域に入り込むことができた。 複雑に入り組んでいる地形をガイは迷うことなく、進み、隠れてやり過ごしたり、行ったと見せかけて、別の道に入ったりして、巧みに相手を混乱させた。 そして谷間を駆け抜け、その出口を気功を使って山崩れを起こし塞いでしまった。これで、大きく時間を稼ぐことができる。

ガイがほっとして、安心して前に進もうとしたところに立ちはだかる男がいた。
「ガムロ、お前が追っていたとは知らなかった」ガイが男を見て言った。
「相手がお前と知って、必ずここにやってくると思って先まわりしていたのだ」
「お前ひとりなのか」
「あたりまえだ。おれひとりで十分用が足りることだ。臆病者のお前を倒し、ひ弱な少年を捕まえればいいのだからな。それで、国王からの栄誉を独り占めできる。ここで終わりだ。ガイ、観念しろ」

ガムロは同じ兵として鍛え合ってきたライバルだった。剣の腕も、気の腕も、互角だ。ここでの野戦訓練にいっしょに参加したこともあり、互いによく知る間柄だった。
「ガイ、逃げるなら、少年を置いていけよ。」
「ガムロ、悪いが俺は、少年を渡すつもりも、ここで終わりにするつもりもない。俺には果たさなければならないことがあるんだ。このナムルを、ユナを、ディーンを、そしてこの国を守るのが俺の仕事だ」
「国王にたてつくようなことをして、何が国を守るだ」
「別に国王にたてつくつもりはない。ただ、本当に守るべきものがわかっただけだ」
「ふん、臆病者のほざきそうなことだ。ここから一歩も通さんぞ。お前が死ぬか。俺が死ぬかだ。さあ決着を付けようぜ。どちらが1番か決めるんだ」
「1番か。俺も目指していたころがあったな。しかし、1番にどんな意味がある。人に勝って何になる。勝ち誇って、人を見下すなどつまらないことだ。 勝つのは人にではなく、自分にではないのか。自分の1番を目指すべきじゃないのか。 そのために、人は競い合うんだ。互いを高めあうためだ。決して相手を倒すためじゃない」
「何をわけのわからないことをほざいている。勝ったものが一番だ」

ガムロは剣を構えた。
「しかたないな」 ガイも剣を構えた。
「おっ、今日は逃げないのか。震えないのか」

ガイは微動だもせず、ガムロに対峙した。いつものガイと違う。あまりにも静かだ。あまりにも落ち着いている。しかし、この威圧感は何だ。打ち込む隙がない。

ガイは無心だった。ただあるがまま、なるがままにそこにあった。人を守り抜く兵士として、人間としてあるがままだった。ガイはそんな自分をまるごと受け止め、何の迷いもなかった。自分を完全に信頼していた。

ガムロがたまらず動いた瞬間、勝負は決まった。ガムロの剣の動きに間髪いれず、ガイの剣が反応し、ガムロの剣を弾き飛ばした。
「まだ、やるか。もう勝負は決まったぞ。本当ならお前は死んでいる」
「その甘さが、弱さだ」

ガムロは咄嗟に気弾を繰り出した。だが、すべての気弾がガイをすり抜けていく。その内の1つの気弾が跳ね返り、ガムロに当たった。とたんに体が痺れて動かない。
「いったい何をしたんだ」
「ちょっとした応用だ。お前自身の気弾のエネルギーを利用させてもらった。対抗するのではなく、お前の力に沿って誘導したのだ。わずかな力で対応できる。 お前の気弾の1つを使って、活殺点、いわゆる体の壺を押させてもらった。1時間もすれば、歩けるようになるだろう。1日たてば元通りになる。心配するな」

ガムロは動かない体を横たえたまま、目をギョロギョロさせていた。
「おれのたたかいは相手を倒すことじゃない。殺すことじゃない。大切なものを守り抜くことだ。命は決して粗末にするな、ガムロ」

ガイは言い放って去っていった。


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