邪悪王の闇の城

高野一巳



12 ディーンの正体

「どういうことだ」ナムルが言った。
「ディーン自身が邪悪王の魂よ。いいえ、正しくは邪悪王の分身なのよ」
「ええっ、そうなのか」
「じゃあ、この少年を殺したら邪悪王を倒すことができるのか」ガイが言った。
「それはわからない。でも、彼自身が邪悪王の魂であることは間違いないわ。彼はとても、世の中を憎み、恨んでいるわ。でも、この少年はそんな自分から必死に逃げているのよ。ディーンは自分自身を恐れている。彼を殺すつもり?」
「悪いが、おれにはできない」ガイが言った。
「俺は兵士だが、人は殺せない。殺す苦しみを知っている。2度とごめんだ。俺の仕事は人を殺すことではなく、人を守ることであることがわかったんだ。 ナムル、できることなら、お前に人を殺すつらさを背負ってほしくない」

ガイにはそれ以外にも心が動いていた。なぜか、ディーンは自分と似ているような気がしたのだった。 自分も、人を殺した自分を受け入れられない。自分自身を恐れて、逃げている。その苦悩が理解できるような気がした。

ナムルは、ディーンを見た。うずくまり、青白い顔をして、怯え、震えていた。これがあの邪悪王の正体なのか。こんなもののために、大切な家族や村の人たちや村を奪われようとしているのか。

この旅が始まったきっかけとなった気持ちを思い出した。生まれてはじめての激しい憎しみ、怒りだった。それが今、よみがえってきた。 愛する者たちのために、僕は今、鬼になる。それが正義だと信じた。 ガイから借りた剣を握りしめた。

ディーンは大きく怯えた目を見開き、一層体を自分で抱きしめるようにこごめ、震え、悲鳴をあげ、泣きわめいた。 同時にユナもナムルを見て、同じように怯えた目を見開き、震え始めた。そして、ディーンと同じように悲鳴を上げ、泣き始めた。完全に感応している。
「ナムル、あなた、こわい。悪のエネルギーが噴き出しているわ。ディーンはその悪のエネルギーを恐れている」
「こいつを殺せば、すべては終わるんだ。自分はどうなってもいい」

ナムルは剣を振り上げた。
「あっ、駄目、違うわ。違う!殺しちゃ駄目っ!」

しかしもう、ナムルは思いっきり振り下ろしていた。だが、剣はディーンに紙一重のところで止まった。ガイがユナの声にとっさに反応して、気を発して止めたのだった。
「ナムル。よく聞いて。今はっきりわかった。邪悪王が不死身なのは魂が別にあるからじゃないのよ。邪悪王は、悪のエネルギー、負のエネルギーを吸収して成長している。憎しみや怨み、怒りといった負のエネルギーがあるかぎり、邪悪王は生き続けるのよ。何度でもよみがえるのよ。 あなたがディーンを憎しみをもって殺せば、邪悪王はむしろ極大になってしまうわ。 このディーンが歯止めなのよ。ディーンを何が何でも守らなくてはいけない。そして、邪悪王のところに連れていかないとすべては終わらないわ」
「なら、すぐにここを出なくてはいけない。国王の兵も、邪悪王の兵も、どうやらここを嗅ぎつけたようだ」ガイが言った。

ガイは気配を感じていた。武術修行の賜物だ。
「ええ、そうね、悪のエネルギーが周囲でだんだん強くなってきている。」

ディーンの震えも怯えもしだいにひどくなってきていた。


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