邪悪王の闇の城

高野一巳



8 ナムルのいらだち

ナムルとガイは施設を出て、町に出た。食べ物を探しに出たのだった。ようやく腹を満たしたものの、2人とも施設に戻る気が起こらなかった。ナムルもガイも疲れを感じ始めていた。

少年に語りかけるのは、ナムルばかりだった。ガイは相変わらず仏頂面して突っ立って聞いているだけだったのだが、同じように疲れていた。何をどうしても、石に話しかけているように何の反応もない。

頭が働かない。どうすればいいのか何の策も浮かばない。2人はただぼんやりと、町の通りに腰を降ろし、さまようように行き交う人たちを眺めていた。町のあちらこちらに同じように、座り込み、何を見るともなく見ている人たちと同じだった。闇の力が自分の心の中にも入り込んできたのか。

しかし、家族や村の人たちを思い出すと、いてもたってもいられない気持ちになる。ナムルは、あせりといらだちを覚えていた。

ガイは、ナムルが懸命に少年を語りかけているのをすべて見てきた。ガイは、師に頼まれたナムルを守る仕事に忠実にしたがっていたのである。常に周囲に目と気を配っていたが、敵の気配は全くない。でも油断はできない。 ガイはナムルを見ながら、なぜこんなに懸命に熱くなれるんだと思った。月の谷にたどりつく間、ナムルはガイを退屈させまいと思ったのか、根からの話好きか、話を聞いているのかわからないガイに、懸命に村のようすや邪悪王を倒す決心した時のことなどを話した。 ガイはむろん、相変わらず仏頂面して鬱陶しいと思いながら、聞くともなく聞いていたのだった。

ガイは師に頼まれ、ナムルを守る仕事をしているが、ナムルも家族を、村の人たちを、村を必死に守ろうとしていることがガイにもわかった。 自分は師に言われてしかたなく、守っている。でも、ナムルは必死だ。全力で全身全霊で懸命に守ろうとしている。 兵士の本来の使命は、国王を守り、国王の命を受け、国を守ることだ。国王に対する忠誠心は誰にも負けないと思ってきた。でも、これもいわば義務、仕事だった。 ナムルのように、純粋に心から自分のすべてをかけて守りたいと思ったことがあったろうか。ガイはふとそんなことを思ったのだった。

ナムルが通りでしょげかえるのを見て、ガイは何とかしてあげたいという気持ちが沸き起こるのを自分でも不思議な気持ちで感じていた。 その時、ガイは通りをしゃべりながら通るおばさんの声を聞いた。この町も都もそうだったが、人々は話すことはあったが、たいてい愚痴や不平不満、人の悪口のような類のものばかりだった。
「あの魔女、本当に気にくわないわね。あの施してやっているんだといわんばかりの態度」
「でも、不思議な力を持っているから、逆らわない方がいいわよ」
「そういえば娘も最近は姿を見せないけれど、人の心を覗く力があったわよね」
「ええ、本当にあの親子はこわいったらありゃしない。」
「よく効く薬を作ってくれるから、しかたなくつきあっているけど、こわいわね」
「うまくつきあって、あまり深入りしない方がいいのよ。」

ガイは、しゃべりながら去っていくおばさんたちを見過ごしながら、
「そうか、少年の心の中を覗くことができたら、何かわかるに違いない。」

つぶやくように言った。ラルウの道場の時以来初めて聞くガイの声だった。ナムルは珍しそうにガイを見た


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