邪悪王の闇の城

高野一巳



5 老人の語り

ラルウの道場は、都の中央の国王の住む城を中心とした城下エリアのはずれに位置していた。老人が行き倒れていた、商人エリアとそれほど離れていなかった。 ラウルとナムルはふたりで老人を抱えて、道場にもどった。その一行はかなり奇妙なものだったはずだが、途中、誰ひとり関心をもつものはなかった。

ラルウの道場はそれほど大きくなく質素だったが、しっかりした門構えである。すがすがしさを感じる。ナムルは、ラルウの人柄がわかるような気がした。

ラルウはテキパキと指示をし、老人は静かな部屋で十分な手当がなされた。 ラルウはナムルにも休んでいくように勧め、食事もふるまった。ナムルは恐縮しながらも、ろくなものを口にしていなかったので、大変喜んだ。

老人はすぐに元気を回復した。そして、ナムルが邪悪王の倒し方を求めているいきさつを知り、老人は語り始めたのだった。
「わしも、学者の立場から邪悪王の弱点を探る研究をしてきた者だ。もしかしたら、農民は実感でわかっているかもしれないが、わしたち人間を含む大自然は、あらゆるものが、互いに支え合って、バランスをとりあうように存在している。

邪悪王の存在がわしたちのこの世界のバランスを大きく崩していることがわかったのだが、なぜこうなったのかはわからない。 また、これまでの経験で、闇の城を守る怪物を打ち破り、邪悪王に迫り打ち倒しても、再びよみがえってくることがわかっている。奴は不死身なのだ。

それでも弱点はあるはずだと探ったところ、奴はどうやら、魂を別のところに置いてあるらしいことがわかった。 しかも最近、Dと呼ばれる男が重要な鍵を握っているらしいこともわかってきたのだ。 もう、すでに国王の手のものは、この男を懸命に探している。それどころか、邪悪王の手の者も探しているらしいのだ。

ところで、わしは今、まだ誰も知らない情報を1つもっておる。わしはこれをこの手で確かめ、Dと呼ばれる男を確保し、国王に取り入る考えだったのだが、もう、わしは力尽きた。 そなたは、農民のようだが、邪悪王を討ちたい、その熱い思いにわしは感服した。 今まで多くの強者どもが、我こそは邪悪王を討ち倒さんと挑んだのを見てきた。その多くは、自分の名を上げたい、国王に取りたててもらいたい、そんな思いの者ばかりだった。 世界を救いたい、世界のために戦うという者もいたが、大義名分であることが多かった。結局、名声と富が欲しかったのだ。

自分の大切な人たちを救いたい、守りたい。そんなそなたの素朴なしかし熱い思いに、わしは賭けてみたくなったのだ。 何かどこかで忘れてきたものを思いがけず見つけた、そんな感じがしたものでな。 わしが掴んだ情報は、Dと呼ばれる男は、どうやら少年で、月の谷にいるらしいということなのだ。

まもなく、この世が終わるとしても、こうして命を救われたことは、わしはとてもうれしい。生きているということはやはりいいものだ。 こんなことでしか礼ができないが、受け取ってくれるかな」
「とんでもありません。貴重な情報を本当にありがとうございます」

ナムルはこの上ない満面の笑顔で深々と頭を下げた。
「しかし」とラルウは口をはさんだ。


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