高野一巳
3 ナムルの失望
都に入った時、ナムルはその建物の壮大さ、美しさに圧倒された。そして、5日間、都の端から端まで歩きまわり、その整然とした広さにも驚愕したのだった。 でも時がたつにつれ、ナムルには、しだいに実際の都の姿が見えてきた。ところどころ、朽ちたまま放ってあるところがあった。川の流れは濁っていた。どの通りもごみごみして汚かった。どの界隈もほこりっぽく、ざらついていた。建物も空気も薄汚れていることが、ナムルにもわかってきた。不快な空気が湧き出し、ねっとりと身にまつわりついてくるような気がした。どことなく、けだるさとよそよそしさが混ざり合ったような雰囲気がただよっている。 都に活気がないことは最初から感じていた。市場でさえ、寂寥感が漂っているのをナムルでもわかったのである。人通りが以前に旅の者から話に聞いていたイメージと違い、とてもまばらだった。出会うどの人も無表情だった。都という濁った池の底で、根なしの藻がゆらゆらしながら、さまよっているような印象をナムルは受けた。 話してみると、さらに無気力であり、無関心であることがわかってきた。ナムルの必死の問いかけにも全く応じてくれないどころか、自分たちの住む都が闇に取り込まれようとしていることでさえ、どうでもいいと投げやりになっているようだった。 ナムルは、誰か邪悪王を倒す方法を知りませんかと問いかけるのに対し、都人は例外なく、冷ややかな目を投げかけながら言う。 「どんな英雄、豪傑、天才がこれまで挑んでも全く駄目だったんだよ。お前のような農民に何ができる。それに、邪悪王を倒す方法があれば、とっくの昔にやっているさ。農民はとっとと村に帰って怯えてろ」 異口同音だったが、おおよそこのようなことをナムルは言われ続けたのだった。 ナムルの服装は見ただけで農民とわかるものだった。それだけでも、都人は馬鹿にするが、話を聞けば、それこそ、さげすむように冷ややかに笑うのだった。 「馬鹿もここまでおめでたいと、もう笑うしかないな。救いようがないね、まったく。」 あからさまに笑う者もいた。つかのまの優越感にでも浸っていたのかもしれない。 ナムルは屈辱を覚えたが、農民であることにナムルは誇りを持っていたし、何よりも自分が何を言われようと、大切な家族、大好きな村を救いたい、ただそれだけの思いで心がいっぱいだったのである。 でも、さすがに体力に自信のあったナムルも疲れてきた。気力も失いかけてきた。自分もいよいよ闇に引き込まれつつあるのを感じざるをえなかった。 そんな時、道に行き倒れている老人を見つけた。助けを求めている。何人もの都人が行き交っているが、誰も見向きもしない。 ナムルはたまりかねて、老人に駆け寄り、声をかけた。 「大丈夫ですか。」 体が熱い。とても高い熱のようだ。 「お医者様がどこにあるか教えてください。この老人、病気のようなんです。」 でも、誰ひとり、関心を向けるものさえいなかった。 ただ1人、老人を抱えて途方にくれるナムルをじっと見ている者がいた。 |