幸運を呼ぶブレスレット

高野一巳



5 面白くない

リョウタはオサムがいろんな面でよくなっていくのを見て、おもしろくありませんでした。
リョウタは相変わらずいやいや仕事をしていました。生活のためにしかたなくやっているのでした。

楽に儲かる仕事はないものだろうかとそんなことばかり考え、どうして怠けようかということに頭を使っていました。
ですから、荷物の扱いも乱暴でした。お客様に対する態度も横柄でした。

そんなですから、仕事上のトラブルが絶えず、しょっちゅう上司に叱られ、愚痴ばかりこぼしていました。

以前ならそんな愚痴をオサムと言い合って溜飲を下げていたのですが、このごろはオサムは忙しくて言い合う機会も減り、最近の調子のいいオサムを見るとなおのこと、むかついてくるのでした。
何もかもが面白くありません。

こうなってくると、あのブレスレットは本当に幸運を呼ぶのだろうかと思うようになってきました。
なら、自分もつけてみたら、よくなっていくのだろうか。

リョウタは何カ月ぶりに引き出しからブレスレットを引っ張り出しました。
しかし、見れば見るほど安っぽく思えてなりませんでした。
リョウタにはどうしても幸運を呼んでくれるようには思えなかったのです。

そして、リョウタは思いました。
オサムの持っているブレスレットだけに特別な力があるのではないかと。
リョウタは、どうせ持つなら本物をもたなければ、効果はないと思ったのでした。

リョウタは自分のブレスレットをしげしげと眺めました。
そして、あるたくらみを思い付いたのでした。

それは、ブレスレットをすり替えるというものでした。
以前よりは機会が減ったのですが、今でも2人は仕事帰りや、休みの日に会っています。

特にオサムはリョウタに完全に心を許しているので、すり替えるのはそんなにむずかしいことではありませんでした。
まんまと成功して、リョウタは自分の腕にオサムのブレスレットをはめることができました。

オサムはそれが自分のブレスレットと知らないで、リョウタが腕にはめているのを見てとても喜びました。
オサムは、ブレスレットがすり変わっていることを知らないで、相変わらず大事に磨いてはニコニコしているのでした。


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