幸運を呼ぶブレスレット

高野一巳



4 どんないいことあるかな

オサムの毎日は何も変わりませんでした。相変わらずの生活、相変わらずの仕事、相変わらずの安月給でした。
でも、オサムは暇さえあれば、腕に巻いたブレスレットを眺めてはニコニコするのでした。
見ているだけで、うれしくなり、どんないいことが待っているのかと思うと浮き浮きわくわくした気分になるのでした。

すると、八百屋での地味な品出しの仕事には変わりがなかったのですが、何だか元気が出て張り切ってやる気になるのでした。
しかも、表情も以前はいやいやしているのがわかるように、仏頂面で無愛想な顔だったのが、今はとてもにこやかな顔になっていたのでした。
態度も前はツンケンとして雑だったのが、対応が柔らかく、商品の扱いも丁寧になり、お客様と接する場合もやさしく、相手を思いやるようになったのでした。

オサムは大切に商品を扱うようになると、きれいに見えるように並べたくなりました。お客様になった気持ちでよく見えるようにしたり、取りやすく置く工夫などもしました。きれいになると気持ちいいし、野菜もうれしそうだし、お客様にも喜ばれました。そうすると、また楽しくなるのでした。
以前はいやいや扱っていた商品の1つ1つが、丁寧に扱ってみると、それぞれの特徴やよさがあって、どれも愛おしく思えるようになってきたのです。

商品のことも興味をもっていろいろ勉強するようになりました。いろいろわかるようになると、それがまた面白いのです。

やがて、オサムの担当している売り場の売れ行きが伸び始めました。

また、お客様に尋ねられてもいつもにこやかに親切にしかも丁寧に的確に受け答えするのが評判になってきました。

店長も以前はいやいや仏頂面して働き、乱暴に商品を扱ったリ、お客様に無愛想な対応をしていたものですから、いつもオサムにきつく怒鳴り、無理な仕事も押し付けてやろうと思ったのでしたが、今のオサムの働きぶりを見れば、大切に扱わざるをえなくなってきました。

オサムは以前ほど毎日の仕事がつらくなくなり、むしろ楽しく面白くなってきました。
これはブレスレットのおかげだと信じて、感謝してなお一層大事にするようになりました。

仕事の量や質は変わっているようには思いませんが、なぜか以前より楽に感じるようにもなりました。
贔屓にしてくれるお客様もあらわれ、もっと役に立てるように勉強もするようになったのです。
役立って喜ばれるとまたそれがうれしいのです。

こうして馴染みのお客様が増え、お店の売上に貢献したおかげで、給料も以前より多くもらえるようになってきました。
何もかもがよい方向にころがっているように思え、ますますブレスレットのおかげだと感謝するのでした。

やっぱり、幸運を呼ぶブレスレットだったんだ。オサムは心からそう信じるのでした。


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