幸運を呼ぶブレスレット

高野一巳



2 幸運を呼ぶブレスレットだよ

ある休日、遊んで帰る途中に、街はずれにブレスレットを売っている行商人を見つけました。
小さな車の荷台に商品を並べていたのでした。

二人が何気なく覗くと、そこにいた長いローブをまとったあごひげの長い、いかにも魔法使いのような雰囲気をもつ年配の男が待ってましたとばかりにしゃべり始めたのでした。
「お前さんたち、しけた面をしているね。しかし、今日を境に人生が変わるよ。
お前さんたちは幸運だ。わしは気の向くままどこへでも流れていくから、ここで別れたらもう2度と会えないかも知れない。
わしと出会ったのはまさに幸運だ。なぜなら、わしがが売っているのは、幸運を呼ぶブレスレットなのだから。
こんなものはわしだけしか扱っていない。どうだい、好きなものを選んでいいぞ。買った瞬間から、幸運をこのブレスレットが引き寄せてくれるんだぜ」
「いくらするんだい」
リョウタが聞きました。
「5000円だ。安いだろう。これがお前さんたちを億万長者にしてくれるかも知れないんだぜ。こんなお得なことはないよ」
ふたりにとって、5000円は大金でした。
ブレスレットは小さなきれいな石をひもで通した手首にかける数珠のようなものでした。
石はしかしリョウタには、ガラス玉か、プラスチックのようにも見え、いかにも安物のような気がしました。
「5000円は高い。オサム、もう行こう。こいつはまがいものだ。
だいいち、幸運を呼ぶブレスレットなら自分で使って億万長者になればいいじゃないか」
「おやおや、身なりがみすぼらしいからといって、わしが貧乏人だと言いきれるかな。
わしはもうありままるほどの富をもっていて、今はただ、できるだけ多くの人に福を分け与えようとしているかもしれないよ。どうだい」
「ふん、口でならなんとでも言えらあ、さあオサムもう行くぜ」
「僕、買う」オサムは目を輝かせて、なけなしの財布から5000円をその男に渡しました。
「お前は馬鹿か。騙されているんだぞ」
「そうかも知れない。でもここで逃したら何だか後悔する気がするんだ」
「それがこいつらの手なんだぞ」
しかし、オサムの5000円はすでに行商人の懐に入り、オサムは選ぶのに夢中でした。
「リョウタ、僕が大成功して、あの時、買っておけばよかったと言ったとしても知らないよ」
リョウタもしかたなく、しぶしぶ買ったのでした。

オサムはそのブレスレットがよっぽど気に入ったのか、帰る途中で何度も取り出してはニコニコしていました。
「そんなことで幸せになれるなんてお前は得だな」
リョウタは財布が、そのブレスレットのおかげですっからかんになってしまってげっそりしていたのでした。


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