ラスト・ファイター

高野一巳



14 たたかい

地球上では、トノヤマたち最後のレジスタンス、ホープジアースの総力をかけた戦いを始めようとしているところだった。 彼らは4つのグループに分かれて、それぞれの持ち場に着いた。

彼らの作戦はこうだった。 まず、第一のグループがヒカルの得た情報を元にバリアの接合部の弱い部分をピンポイントに 集中的にロケット弾を撃ち込む。うまくいけば一部バリアを破ることができるだろう。

ギャリオンの地上基地は、バリアに守られている。これは人類の持つ武器では撃ち破ることができない。 バリアを破らない限り、基地を攻撃することができないのだ。

ヒカルが以前にギャリオンに捕まった時にも、バリアを破ろうと闇に乗じて、プラスチック爆弾を 仕掛けたのだった。ヒカルはそれまでの経験で、確かにバリアに弱い部分があることを知っていた。 バリアが1つの装置では覆いきれず、複数の装置でバリアを生み出しているらしい。その接合部に弱点があることをヒカルは見抜いた。 そこにバリアを発生させる装置が隠されているようだが、うまくカムフラージュされている。それを破壊して、バリアを不能にすれば、人間の武器でも 基地を攻撃できるようになる。 それで目星をつけてやったのだが、失敗したのだ。 しかし、今回は確かな情報がある。これが成功すれば、ここから侵入できる。 さらに、これで敵をあおり、かく乱させるのも、重要な目的だった。

第二のグループは、あおられてギャリオンの地上部隊が出てくる瞬間を待ちかまえて、 そこのバリアが解除されるところに集中攻撃をしようとするものだった。奴らが出てくる間、一部分バリアが無くなるのだ。 これもヒカルの情報によるところが大きかった。そこを攻撃すれば、大きなダメージを与えられるはずだ。 ここを突破できれば、基地内に攻め込むことが可能になる。

そして、第三のグループは、ギャリオンが必要とする空気を地球の空気を加工して生成している ために高層部に空気取り入れ口があることに目をつけて、ここを攻撃することだった。この部分にはバリアがない。 これもヒカルの情報で正確な位置が分かっている。 レジスタンスは飛行機類を持たないため、ギャリオンは空からの攻撃を想定しておらず、 高層部は比較的無防備なところがあったのだ。

もとより、空からの攻撃はできないが、ロケット弾の弾道を計算して、打ち上げて落とそうという ものだった。かなりのテクニックを必要としたが、ジュンペイには自信があった。 これを撃ち込めば、空気生成を止めてしまうことができる。そうなると、かなり有利に攻め込んで いけるようになる。

総力を結集して、基地内に攻め込むのだが、これには4つ目のグループによる作戦を援護する 目的もあった。 4つ目のグループは、転送装置のところまで入り込み、ここからマザーシップへありったけの爆弾を送り込もうと いうのである。 準備は着々と進められていった。

一方ギャリオンは、目前に迫ったグリゴンとの最終決戦にすべてを集中しようとしていたため、 レジスタンスの動きに注意を払うものはいなかった。 レジスタンスを制圧して、地球人を完全支配することを目的としている地上基地でさえも 全くの油断があった。奴らにとって、人類はもはや敵ではなかった。取るに足りないものと見くびっていた。

通常、地上勤務していた兵士の半分以上がグリゴンの決戦に参加していた。 奴らにはそれの方が自分たちの生き残りをかけた重要な戦いだったのだ。

万一レジスタンスが攻撃してくることがあったとしても、守りきれると信じて疑うことがなかった。 世界中に数多くあったレジスタンス組織も今や、トノヤマのグループだけになっていた。 そのグループも武器、食料などの確保が難しく、士気も著しく低下していることがわかっていた。 放っておいても、消滅するのは時間の問題という思いがあったのである。 しかも、謎だったトノヤマたちのアジトも判明しており、いつでも壊滅が可能だ。 やつらの命はわれらの手のうちにある。もう、勝ったも同然だと思っていた。グリゴンとの決着がついた後で全滅させる計画も準備も整っていた。

ギャリオンの読みは正確だった。 過酷で劣悪な環境に置かれて、しかもわずかな希望も未来も見えない状態に多くの者が もう耐えられなくなってきていた。 武器や食料がまだ豊富にあったり、調達のめどが立っている時はそれでも、頑張ることが できた。

しかし、武器も食料もさまざまな生活物資でさえも、底を突こうとしており、それを調達する 方法も見つからない今、精神的にくじける者が増えてきていた。 人間牧場と呼ばれるコロニーの生活はギャリオンの食糧にされたり、こき使われることを忘れれば、 レジスタンスの生活に比べれば、それこそ天国のように見えたのも、心を萎えさせる大きな効果を 発揮した。 そんな状況の中で自滅していったレジスタンス組織は少なくなかった。 たいてい、仲間内での、各々が生き残らんがための争いによるものだった。 自分の都合のいい主張をしあったり、責任のなすりつけあいをしたり エゴイズムがむき出しになってしまえば、自身を窮地に追い込むばかりだった。

トノヤマのグループがここまで持ちこたえることができたのは、和を重んじて、どんな時も 助け合って乗り越えていこう、励まし合っていこうという、互いを思いやり、支え合う心を トノヤマが何よりも大切にしたからかも知れない。 でも、それも限界に来ていた。 ギャリオンの読みどおり、壊滅は時間の問題だったろう。

しかし、ヒカルがリスクを背負って運んできてくれた、ほのかな希望の光が 彼らの心の何かを変えた。 バタフライ効果は、初期値がわずかに違うだけで、大きな結果の違いを生むというものだが、 人間の人生には、その時々の小さな変化がやがて大きく運命を変えていくことがあるものだ。 小さな変化の積み重ねが人生という舟をどんどん新しい未来に押し出していくのである。 ヒカルが灯した小さな希望の光が今、大きな変化を生み出そうとしていた。最後の力を振り絞ろうとしていた。

そんなわけで、ギャリオンの地上基地の総司令官は第一の攻撃があった時、何が起こったのか一瞬 わからなかった。何か事故でも起こったのかと思った。 彼は、マザーシップからのグリゴンとの戦闘状況の情報を、自室でくつろぎながら聞き入っていたのだ。

何もかも劇的に変わろうとしている。もう戦争をしなくてもよくなるかもしれない。 あまりに長かった。本当にもう終わりにしたい。 兵役を逃れたら何をしよう。彼の夢は膨らむのだった。

しかし、攻撃の連絡を受けたら、頭の切り替えは早い。すばやく攻撃場所、破損状況を確認しながら、 戦闘準備を整えさせた。自室からでもすぐ連絡できるようになっていたのだ。 次いで、攻撃方向から敵の位置を割り出させ、反撃を命じた。
「C−8ブロック、バリア破損の模様、ただちに補助バリア作動」
「わが方攻撃弾着弾、命中」
「あ、再びC−8ブロック集中攻撃、補助バリア不能」
「第二攻撃目標着弾命中」 次々に報告が入ってくる。
「くそ、なまいきな奴らだ。温情でもって、猶予を与えてやったのに、もう容赦はしないぞ。 跡形もなく、たたきつぶしてやるわ!攻撃隊出動、いっきにやつらを壊滅させよ。 やつらのアジトにミサイルを撃ち込め」

トノヤマたちの第一グループは、あらかじめ、2か所に攻撃態勢を整えた。 ひとつめの攻撃位置で集中攻撃を浴びせて、すぐにふたつめの攻撃位置にうつる。 ギャリオンが正確にこちらの攻撃場所を特定して、反撃してくることはわかっていたのだ。 さらに補助バリアにも攻撃を加えておく必要があったのだ。 重要な武器をいくつか失うが、もう出し惜しみをしている段階ではない。

第二グループは、ギャリオンたちのレーダーや監視装置にかからないようにカムフラージュを 施して、接近を果たしていた。 彼らに気づかれたら、そこから、出てこない可能性があった。 しかし、ギャリオンは、ここでも油断があった。怒りにまかせて、ギャリオンの兵士たちが無防備に 装甲車で飛び出してきた、装備に格段の違いがあり、ギャリオンの方が圧倒的に優勢で あることは確かなことだった。だから、たとえ鉢合わせしても勝つ自信があった。 しかし、そんなに近くまで接近しているとは思わず、確認することもなかったのである。 間髪入れずその隙をついて、総攻撃がかけられた。

同時にその総攻撃を合図に、第三グループによる、弾道ロケット弾が発射されたのだった。 これは見事に撃ち込みに成功して、基地の内部で大爆発を起こした。

出口でいきなり攻撃を加えられたギャリオンの攻撃隊はパニックに陥った。 その上、基地内部で起こった大爆発に気を取られているうちに、出口をいくらも出ないところで 壊滅してしまったのだった。

トノヤマたちのアジトを狙ったミサイルも命中して、跡形もなく吹っ飛んでしまったが、 すでに引っ越しは完了していた。

ギャリオンの地上ニホンエリア基地総司令官は、見事アジトを壊滅させたことを確認して、もうすべてが 終わった気分になっていた。 攻撃隊の仕事もすぐにかたがつく、と安心しきっていたから、基地内で大爆発が起こった時は、 それが攻撃だとは、すぐには判断できかねた。すぐ、攻撃隊に連絡をとり、状況を知ろうとした時には、 トノヤマたちレジスタンスは、基地内部への侵入をすでに始めていたのだった。 基地内に設置されているカメラやセンサーが彼らを捉えていた。何ということだ!

基地内に残ったギャリオンの兵士はそう多くない。しかも、内勤の者たちが大半だった。 そんな彼らも必死に応戦していた。 しかし、すぐに、空気製造がストップしたという警報が鳴り響き、ますます、ギャリオンの兵士たちは あわて、うろたえた。戦わず逃げ出す者もいる。

司令官は、思いもよらなかったことだが、基地はもうだめだと直感した。 自分の身の危険を感じた。人間どもから逃がれることができても、ゾラは容赦なく、この失敗を命で償わせるだろう。 兵役引退後の楽しい夢ははかなく消えていった。何と憎らしい人間どもめ!

そんな切ないくやしい哀しい思いをかみしめながらも、レジスタンスたちが何かを目指しているような 気がした。すぐにわかった。転送装置だ、そこからマザーシップに乗り込むつもりだ。 これだけは何としても阻止しなくてはならない。 総司令官はすぐに動いた。

トノヤマたちは、すばやく慎重に動いて、基地を着実に占拠していった。 すでに地球の空気に満たされてしまった基地内には、苦しむギャリオン兵士はいても、 立ち向かってくる者はもはやいなかった。

第4グループは、誰に邪魔されることなく、転送装置のところまで、爆弾を運び込むことに 成功していた。
「最後まで気を抜くな」トノヤマはみんなに声をかけた。

みんなに守られながら、爆弾が転送装置内に設置すると同時に ヒカルからのメッセージに書かれた転送装置の操作の仕方を確認した。 さあいよいよだ。時限装置を転送装置を操作する者とのタイミングを計りながら作動させた。 3分後に設定された。 同時に転送装置も稼働させた。

その時、転送装置の背後から飛び出してきたものがあった。 呼吸器をつけたギャリオン人、この地上基地の綜合司令官だった。 トノヤマたちが虚をつかれた隙に彼は転送装置のコントロールパネルを撃ち抜いてしまった。 転送装置が火花と煙を出し始めた。 レジスタンスの戦士たちは反射的に彼に銃弾を浴びせかけた。 総司令官は倒れながらもなお、爆弾の上に覆いかぶさった。 瞬間、トノヤマは作戦の失敗を悟った。
「全員。至急退避!できるだけ、遠ざかり物陰に伏せろ!」

懸命に走る背に強烈な爆音と爆風と衝撃が襲いかかってきた。 それに吹き飛ばされるように物陰に身を投げ出した。

トノヤマは静まるのを待って、ようすを伺うと転送装置が見事に破壊されていた。 ここまで入り込みながら、マザーシップへの攻撃を果たせなかったことが無念でならなかった。


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