ラスト・ファイター

高野一巳



13 マザーシップ

ヒカルは上空から見たときの光景を思い出し、位置関係を割り出し、 輸送艇がいた方向を目指して急いだ。マザーシップに向かう船があるはずだ。 輸送艇は荷物が運び込まれているところだった。

ヒカルは慎重にようすをうかがった。 運び込んでいるのは、兵士であったが、グリゴンではない雑兵のようだった。 ヒカルが着ている制服では紛れ込めない。

積み込みを指示したり、普通に出入りしている兵士たちはグリゴンの 正規兵のようで、ヒカルの制服に似ていた。 ヒカルは意を決して、勝負をかけてみることにした。 何気ないそぶりで、他の正規兵のように当たり前のように堂々と 乗り込もうとした。
「おい、ちょっと待て!」 ハッチをくぐったところで、声をかけられた。
「どこへ行くつもりだ。お前は攻撃兵だろう。何の用だ」
「はいっ、マザーシップに至急の用があるのですぐもどれとの命令を受けました」
「どこの所属だ。名乗れ!。何も連絡を受けていないぞ。乗り組む人員は 限られているんだ。許可が必要だぞ」
「申し訳ありません。すぐ許可を得てきます」 ヒカルは引き返さざるを得なかった。

グリゴンの警備隊長のゾルグがその通報を受けたのは、ギャリオンの不穏な 動きをキャッチしたことに対する緊急会議を終え、スパイの侵入には特に 警戒して、警備を強化するようにとの指示に対応して策を練っているところだった。
「何!、惑星基地の倉庫内に輸送艇付きの雑兵が縛られて気絶しているのが、 見つかったというのか。すると、何者かが雑兵にまぎれて輸送艇に乗り込んだ 可能性があるというわけだな。 輸送艇は今どこだ。ふむ、まもなく、マザーシップに到着するところだな。 輸送艇には連絡したのか。よし、今、雑兵を確認しているのだな。 すぐ、ランディングデッキに警備兵を配備しよう」
ゾルグは連絡を終えるとすぐに、自身もランディングデッキに急いだ。

ゾルグがランディングデッキに着いた時は、ちょうど輸送艇が入ってくるところだった。 輸送艇が停止し、ハッチが開くのももどかしく、出口に警備兵を配置した上で、 多くの警備兵とともに、輸送艇に乗り込んだ。 輸送艇のキャプテンが出迎えた。
「雑兵がひとり行方不明になっています。今、船内をくまなく探しているところです」
「警備兵にも手分けして探させましょう。貨物庫はよく見ましたか」
「もちろんです」
「雑兵たちは、行方不明の雑兵の姿がいつから見えないと言っているのですか」
「荷物を運んでいるところは見たらしいのですが、船に乗ってからは見ていないと 言うのです。置き去りにすることはよくあることなので、気にしてなかったらしい。 全く仲間意識に乏しいやつらだ」

ゾルグは思いついて、貨物庫に向かった。
「奴は必ず船内に入り込んでいる。雑兵らが見ていないということは、貨物庫内に 潜んでいた可能性が高い。もっとよく調べてみろ」 警備兵たちに命じた。

自らも庫内を、何ひとつ見逃すまいと見てまわった。 そして、違和感を感じた。何かが違う。 ロープのかかっていない積み荷があったのだ。 警備兵を集めて、銃口を荷箱に向けさせ、ふたを開いた。 ふたは容易に開いた。 中には雑兵の制服があるばかりだった。
「しまった。」
ゾルグはすぐに出入り口で見張っている警備兵に無線連絡をした。
「そこから、出て行った者はいないか」
「グリゴンの正規兵が2名出て行きましたが。 一人は衛生兵、ひとりは攻撃機操縦士のようでした」 輸送艇のキャプテンは言った。
「衛生兵は私が先に降ろさせたのです。緊急救急物資がありましたもので。 ところで、惑星にいるとき、攻撃機操縦士が船に乗せてくれるように 言ってきたようです。許可がなければだめだと追い返したらしいのですが」
「そいつだ。」 ゾルグは再び無線連絡をとった。
「監視センターか。ゾルグだ。 艦内の監視カメラを走査して、さっきランディングデッキから出た攻撃機操縦士を 追ってすぐ位置を知らせよ」

ヒカルははやる心を抑えて、目立たないように行動するように努めていた。 ギャリオンの学習室で叩き込んだグリゴンの母艦内のマップを頭の中でなぞっていた。 目指す機関室まで、後少し。

だが、その足を止めざるを得なかった。 慌ただしい雰囲気を感じ、後ろを振り返ると、警備兵が数人走ってくるのが見えた。 もう、見つかったか、足を速めようとして前方を見るとそこにも警備兵の姿が現れた。 しまった、挟まれた。ヒカルはすばやく、周囲の状況を見てとって、身近に1つの通路を 見つけて、すぐにそこに入り込んだ。この向こうにも、待ち伏せているに違いない。 ヒカルは、一瞬考えて、いくつか並ぶドアの1つを選び、開けて入り込んだ。 通路の向こうに現れた警備兵が、ヒカルがそのドアに入り込んだところを しっかり捉えた。

その報告を受け、ゾルグは喜んだ。その部屋も機械室の1つだが、出入り口は1つしかない。 もう、捕まえたのも同然だ。 警備兵たちで、その1つのドアの前を包囲して、数人の警備兵が用心しながら、入っていった。 機械類がいりくんでいるので、隠れる場所はいくつかあったが、たいして広い場所ではなかった。 数人の警備兵で取り囲み、包囲を狭めていけばもう逃れられない。

すぐに、一人の警備兵が、潜んでいるところを見つけた。 他の警備兵と合図を交わして、挟み込むように回り込み、いっせいに銃をつきつけた。
「よし、動くな。」
見つかって観念したのか、相手は微動だにしなかった。
「ゆっくり、立ち上がれ。」 しかし、じっとして動かない。
「おい、聞こえんのか。」

一人の警備兵が銃でこづくと、攻撃機操縦士はゆっくりを倒れ込んだ。 そして、抱きおこそうとした時、制服だけで、中身がないことに気付いたのだった。
「くそ、どこに行きおった。」

その時ヒカルはすでに排気ダクトの中を突き進んでいた。 迷路のように入り組んだマザーシップの排気ダクトだが、その経路はすべてヒカルの頭に入っていたのだ。 ゾラの狙いもこれだった。ギャリオスのような巨体ではとてもここに侵入することができない。 しかも、このような中をすばやく移動していくのは、ヒカルが確かに得意とすることだったのだ。 ここなら、グリゴンの目を欺いて、マザーシップの中心にある最終兵器に近づくことが可能になる。

しかし、ゾルグはすでに敵の狙いに気がついていた。
「奴の狙いは最終兵器だ。間違いない。どういう手を使ったかわからないが、排気ダクトを 伝っていっている可能性も考えられる。だが、どんな手段で近づこうが、最終兵器が狙いなら、 完全に先回りができるぞ。ギャリオンが狙うのはBブロックだ」

グリゴンもギャリオンの情報をかなりキャッチしていたのだった。 ゾルグは、すばやく次々に指示を与えて、たちまちBブロックばかりか、完全な警備網を張った。 もう、どこから侵入してこようと、絶対に最終兵器に近づけない。 後は網にかかるのを待つばかりだ。


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