高野一巳
13 マザーシップ
ヒカルは上空から見たときの光景を思い出し、位置関係を割り出し、 輸送艇がいた方向を目指して急いだ。マザーシップに向かう船があるはずだ。 輸送艇は荷物が運び込まれているところだった。 ヒカルは慎重にようすをうかがった。 運び込んでいるのは、兵士であったが、グリゴンではない雑兵のようだった。 ヒカルが着ている制服では紛れ込めない。 積み込みを指示したり、普通に出入りしている兵士たちはグリゴンの
正規兵のようで、ヒカルの制服に似ていた。
ヒカルは意を決して、勝負をかけてみることにした。
何気ないそぶりで、他の正規兵のように当たり前のように堂々と
乗り込もうとした。 グリゴンの警備隊長のゾルグがその通報を受けたのは、ギャリオンの不穏な
動きをキャッチしたことに対する緊急会議を終え、スパイの侵入には特に
警戒して、警備を強化するようにとの指示に対応して策を練っているところだった。 ゾルグがランディングデッキに着いた時は、ちょうど輸送艇が入ってくるところだった。
輸送艇が停止し、ハッチが開くのももどかしく、出口に警備兵を配置した上で、
多くの警備兵とともに、輸送艇に乗り込んだ。
輸送艇のキャプテンが出迎えた。 ゾルグは思いついて、貨物庫に向かった。 自らも庫内を、何ひとつ見逃すまいと見てまわった。
そして、違和感を感じた。何かが違う。
ロープのかかっていない積み荷があったのだ。
警備兵を集めて、銃口を荷箱に向けさせ、ふたを開いた。
ふたは容易に開いた。
中には雑兵の制服があるばかりだった。 ヒカルははやる心を抑えて、目立たないように行動するように努めていた。 ギャリオンの学習室で叩き込んだグリゴンの母艦内のマップを頭の中でなぞっていた。 目指す機関室まで、後少し。 だが、その足を止めざるを得なかった。 慌ただしい雰囲気を感じ、後ろを振り返ると、警備兵が数人走ってくるのが見えた。 もう、見つかったか、足を速めようとして前方を見るとそこにも警備兵の姿が現れた。 しまった、挟まれた。ヒカルはすばやく、周囲の状況を見てとって、身近に1つの通路を 見つけて、すぐにそこに入り込んだ。この向こうにも、待ち伏せているに違いない。 ヒカルは、一瞬考えて、いくつか並ぶドアの1つを選び、開けて入り込んだ。 通路の向こうに現れた警備兵が、ヒカルがそのドアに入り込んだところを しっかり捉えた。 その報告を受け、ゾルグは喜んだ。その部屋も機械室の1つだが、出入り口は1つしかない。 もう、捕まえたのも同然だ。 警備兵たちで、その1つのドアの前を包囲して、数人の警備兵が用心しながら、入っていった。 機械類がいりくんでいるので、隠れる場所はいくつかあったが、たいして広い場所ではなかった。 数人の警備兵で取り囲み、包囲を狭めていけばもう逃れられない。 すぐに、一人の警備兵が、潜んでいるところを見つけた。
他の警備兵と合図を交わして、挟み込むように回り込み、いっせいに銃をつきつけた。 一人の警備兵が銃でこづくと、攻撃機操縦士はゆっくりを倒れ込んだ。
そして、抱きおこそうとした時、制服だけで、中身がないことに気付いたのだった。 その時ヒカルはすでに排気ダクトの中を突き進んでいた。 迷路のように入り組んだマザーシップの排気ダクトだが、その経路はすべてヒカルの頭に入っていたのだ。 ゾラの狙いもこれだった。ギャリオスのような巨体ではとてもここに侵入することができない。 しかも、このような中をすばやく移動していくのは、ヒカルが確かに得意とすることだったのだ。 ここなら、グリゴンの目を欺いて、マザーシップの中心にある最終兵器に近づくことが可能になる。 しかし、ゾルグはすでに敵の狙いに気がついていた。 グリゴンもギャリオンの情報をかなりキャッチしていたのだった。 ゾルグは、すばやく次々に指示を与えて、たちまちBブロックばかりか、完全な警備網を張った。 もう、どこから侵入してこようと、絶対に最終兵器に近づけない。 後は網にかかるのを待つばかりだ。 |