高野一巳
12 想定外
「お前はどこから来た!」 ヒカルはギャリオンの翻訳機をグリゴン用に改造したものを身につけていた。
だから、相手の言うことは理解できた。
ヒカルの言葉をグリゴンに翻訳して音声に変える装置も装着していた。
呼びかけられるのは想定内のことだった。ヒカルは用意していたセリフを言った。 これは、想定外だった。でも、今はまだ不審な行動をするべきでない。 奴に従う他はない。ヒカルはそう思った。 やがて、見えてきたグリゴンのマザーシップ、それを脇に見て通り過ぎていかなくては ならなかった。 何とか、マザーシップに潜りこむ方法はないか。ヒカルは頭をフル回転させて、考えた。 何か利用できるものはないか。あらゆるものをつぶさに観察した。 惑星はすぐに見えた。木星の衛星の1つを利用しているようだ。 母艦は、軌道上にはないが、もしかすると、ギャリオンのように転送できるように なっているかも知れない。 ヒカルは、ギャリオンから、グリゴンのこともいろいろ教えられたが、非常に ギャリオンに似たところがある。同じ空気を吸っているようだ。 おそらく、もともとは同じ種族だったのではないか。 使っている設備も若干の違いはあるが、基本的には同じである。 さらに人類とも、共通している部分もないわけではなかった。 あまり認めたくはないが、身体の構造も根本的には共通した部分がある。 ずっとさかのぼっていけばどこかでつながっているのかもしれない。 同じ宇宙空間に生息しているものどうしであることは確かだ。 彼らも基本的には原子分子でできており、同じ物理法則に従っているのだ。 体格こそ違え、2足歩行し、言葉を持つなど共通点も多い。 だからこそ、ある程度の推測も可能となる。 グリゴンも転送を使っていることが十分考えられる。 転送装置はあるとすれば基地内に違いない。 惑星上の基地に向かって飛行していきながら、上空から、全体の位置関係を 瞬時に把握した。 指示に従い、無事着陸を果たした。 今のところ、怪しまれていないようだ。
一刻も早く、マザーシップに入り込まなければ。左手の項のカウントダウンは無情に刻んでいる。
ヒカルは基地に向かって歩き出した。その時、 ヒカルは同じレジスタンスの戦士に教師になるのが夢だったという男に出会ったことが あったのをふと思い出した。教育にかける夢を熱く語っていた。彼は今は子供たちの未来のために 戦うのだともいった。でも、その言葉に彼自身空虚さを感じていたようだった。 ギャリオンさえ来なければ、彼はどんな優れた教師になっていただろう。 しかし、彼は思いと全く別のところで死んでいったのだ。 戦争は本当に人の命を生活を心を踏みにじってしまい、跡に何も残さない。 戦争は人を狂わし、滅ぼすものでしかないことを、思わざるを得なかった。 早く、終わらさなければならない。 ギャリオン同様人類にとっては憎むべきグリゴンであるはずなのに、ヒカルはルーンと名乗った
異郷の男に深い憐憫の情を起こさずにはいられなかった。 ルーンは基地の中の遊楽エリアに足を踏み入れていた。 さまざまな兵士でごった替えしている。いろいろな種族がいるようだ。 こんな状況でなかったら、いい友達になれたかもな。死ぬなよ。 ヒカルは心で呼びかけて、そっと離れて行った。 |