ラスト・ファイター

高野一巳



9 レイナ

「大丈夫かい、レイナ。」

ヒカルが去ると同時に自分の部屋に閉じこもったレイナを心配して、ドア越しに ジュンペイが声をかけてきた。
「心配してくれてありがとう、ジュンペイ。でも、今はひとりにしておいて欲しいの。 ごめんなさいね。」
「あ、いいよ。わかるよ。僕も複雑な気持ちだ。じゃあ後で。」

レイナにはジュンペイの自分への思いをよくわかっている。本当に愛してくれている。 本当に大事にしてくれる。それをレイナはとてもうれしく思うし、彼女にとってもジュンペイは 大切な人だった。心から愛しているつもりだった。

でも、今日、ヒカルに再会して、ずっとヒカルを思い続けていたことに気づいてしまった。 ヒカルのことを懸命に忘れようとしてきたはずだったのに、むしろ、ずっと追い続けていたようだ。 今思えば、ジュンペイといる時、いつも、ヒカルを過ごした時を重ね合わせるように ジュンペイの向こうに、ヒカルの影を見て、ジュンペイをいつしかヒカルの代わりに していたような気がする。 そんな自分に驚き、そんな自分を許せないと思い、ジュンペイに申し訳ないという気持ちで いっぱいになった。

それなのに、今再びヒカルを失おうとしているのを思うといてもたってもいられなくなる。 何もできない自分がはがゆくなる。今にも追いかけていきたい気分だった。 でも、そんなことはできない。

レイナは、自分の裏切りのせいで、ヒカルの生き抜く意欲をそいでしまったのではないかと不安になるのだった。 死地での戦いは、ほんのわずかな気持ちの持ちようで変わってくることをレイナも知っていたのである。それを思うとまた、涙があふれてきて止まらない。

今、ヒカルにつながっているのは、この預かったペンダントだけ。
彼が未来に希望を託すといったそのペンダント。
レイナはすがるような思いで、ペンダントを操作して壁面に投射させた。
「あっ、これは、」そこに映っていたのは、ヒカルの得たギャリオンに関する重要な情報 だけではなかった。


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