ラスト・ファイター

高野一巳



8 作戦開始

ヒカルが廃墟の地下鉄の駅を出たところに、ギャリオンの監視兵3人が待ち受けていた。 探すというより、出てくるのを待っていたようすだった。 やはり、居所を把握されていたか。ヒカルはたいして驚かなかった。

ごていねいに、飛行艇まで待機してくれていたようだ。 おとなしく乗り込むと、モニターから皇帝ゾラが見下したような笑いを投げかけてきた。
「ゆっくり、お別れができたかな。彼らを悲しませたくないだろう。彼らを助けたいだろう。 お前ならそれができるんだ。わしらに全面的に協力すればな。忘れるな。わしらはもう やつらをいつでも攻撃できる。お前が案内してくれたからな。おまえらはこういうのを 人質というんだろう。人間は人質に弱いと聞いたが、本当なのかね。 人質の命は、わしが握っていることを忘れるな。

さあ、ゆっくりしすぎた。もう時間がない。その飛行艇はじきに、お前の乗る敵機を運ぶ 輸送艇に連れていってくれる。そこにすべてが準備されている。

まもなく、お前の体内に埋め込んだ時限装置が動きだすだろう。 30時間がタイムリミットだ。それまでに、最終兵器破壊装置を取り付けて作動させたら、 時限装置は解除される。しかし、失敗したり、放棄したり、逃げたら、30時間でお前の 命は終わる。お前の体内に埋め込んだ爆弾が、心臓をこなごなに砕くことになるぞ。その時は仲間とやらも道連れだ。忘れるな。 お前は成功するしかないのだ」

皇帝ゾラは言いたいことをいうと、例によって一方的にモニターから消えた。 完全に縛られ身動きがとれない。慎重に動きを封じ込められてしまったようだ。 ヒカルは崖っぷちに立たされた思いだった。もう後戻りはできない。ヒカルは覚悟を決めた。

ヒカルは昔から、困難であればあるほど、闘志がわいてきて、 頭も心もだんだん澄み切ってきて、集中力がかえって増してくるのだった。 窮鼠猫をかむ。火事場の馬鹿力の類であるのかも知れない。 心身の奥から、エネルギーがわき起こってくるのを感じていた。 俺のすべての力よ目覚めよ。フル稼働せよ。 ヒカルは、自分自身に呼びかけた。

輸送艇にゾラの言ったとおり、すべてがそろっていた。 ヒカルは自分自身でチェックしながら、ギャリオンが用意してくれたものを 慎重に装着していった。 失敗は絶対に許されない。万全の準備が必要だ。 敵が用意したものであろうと、今利用できるものは、どんなものでもとことん 活用するつもりだった。

左手の項に皮膚を通して、30:00::00の文字が光るように浮かび上がった。 すぐにカウントダウンが始まった。またたく間に数字が減っていく。 命が砂粒のようにこぼれ落ちていくような気がした。 ヒカルの体中に緊張が走ると同時に力がみなぎってきた。 その左手に手袋をはめたら、装着完了だった。

どこから見てもグリゴンの兵士がいるようにしか見えないと ギャリオンの兵士たちは言った。 グリゴンの兵士はギャリオンの兵士と同じようにヒカルの2倍はあろうかという 体格だった。ヒカルは特殊なスーツを着込んでいたのである。


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