高野一巳
7 ホープジアーズ
ヒカルは慎重に入り組んだ迷路をさらに複雑に動きまわった。 かつて、地下街だったところにもぐりこみ、その通路から大きな建物の廃墟の中に入った。 ここは外から見ればがれきが積まれているようにしか見えないが、中には空間があった。 この建物の地下3階にある機械室がホープジアースの本部として使われていたのである。 本部ではすでに、周囲に張り巡らされたセンサーやカメラによって、ヒカルの姿が 捉えられており、騒然となっていた。 武器のチェックから、人間かどうか、本人かどうかのチェックまで行われているはずである。 機械室に入ったところで、みんながヒカルを出迎えてくれた。 今のホープジアースのリーダー、ヒカルの親代わりのトノムラが満面の笑顔で、
両手を大きく広げて迎え入れた。 恋人のレイナがこれ以上ないと思うほどの笑みと涙で顔をくしゃくしゃにしながら 飛びついてきて、強く抱きあった。 その肩越しに親友のコイデジュンペイが相変わらずニヒルな笑いを浮かべながら、
ガッツポースをしてみせた。 みんなが口ぐちにこんなうれしいことはないとばかりに話しかけ、握手したり、肩を叩き合ったりした。
ちょっとしたお祭り騒ぎになった。 ほどなく、彼はあらわれた。 見た目には、先ほどとほとんど変わっていないし、何も持っていなかった。 しかし、そのスーツはたくさんのポケットのついたものであることを知っていた。 彼の戦闘服だった。どんな状況でも生き抜けるような装備を施してある。 だれひとりとして、その場を動いてはいなかった。 みんなを救うためとはいえ、ギャリオスのために働くと聞けば、ややこしくなる
だろうと思い、事実を言うつもりはない。 差し出されたのは、ヒカルがずっとお守り代わりに肌身離さず持っていた
ペンダントだった。
レイナとペアの思い出のものだった。
すれ違うことが多い彼らは、そこにメッセージをこめて、交換しあっていた
のである。
小型だが高性能のカメラ機能と投射装置がついていた。3D映像でそこにいるような臨場感を味わえる。
それでありながら、美しい装飾が施されていたので、ふたりのお気に入りだった。
廃墟となったショッピングモールで遊んでいた時に見つけたものを改造したのだ。 ヒカルは彼女がチラッとジュンペイの顔を目を走らせたのを見逃さなかった。
レイナの胸にヒカルとの思い出のペンダントはなく、ジュンペイとレイナの腕に
同じようなブレスレットを見つけたとき、すべてを悟った。 ヒカルは決死の覚悟の戦いに向かわなければならない。生きて帰れないかもしれない。 むしろ、ジュンペイがレイナを守ってくれるなら、思い残すことはない。ヒカルは自分にそう言い聞かせた。 ヒカルはトノムラに向き直った。 レイナ、そのペンダントに俺は俺たちの未来への希望を託す。願いをかける。 人類の明るい未来を信じて最後まで戦い抜く。そしてきっと勝つ」 ヒカルはさわやかな笑顔を残して、扉の向こうへ消えていった。 「ラストファイターだな。あいつは」トノムラがつぶやいた。 |